オムニバス盤『LET IT BE Black America Sings Lennon, McCartney and Harrison』を聴く

アメリカの黒人歌手によるビートルズのカバー集の第2弾が発売された。第1弾の出来がすごぶる良かったのだが、今回は"Harrison"が追加された事も相まって、いやが上にも期待感が高まる。ケース裏の曲目一覧を見ると、古くは1963年から最新は2009年とかなり長い期間からチョイスされている。ただ、最初に断っておくが、個人的に黒人歌手についてすごぶる詳しい知識があるわけではないので、主にビートルズマニアからの視点によるレビューとなる事を了解いただきたい。



さて本題。まず、このアルバムに収録された曲は大きくふたつのタイプに別れる。まず、ビートルズの解釈そのもの、即ち、本質的な部分においてかなりオリジナル近いもの。そして、オリジナルとは大きくかけ離れた独自の解釈によるもの、という分類である。例えば、01.「Eleanor Rigby」はAretha Franklinによる歌唱だが、オリジナルがストリングスによるバッキングなのに対し、こちらはピアノを中心に据えたリズム重視で、歌われるのは貧困層の黒人達といったイメージだ。02.「Dear Prudence」は THE 5 STAIRSTEPS なるアーティストの曲だが、これはほぼオリジナル通りの演奏と歌唱となっている。03.「Got To Get You Into My Life」は Earth,Wind & Fireによるものだが、これは映画「Sgtペパーズ」のサントラに収録され大ヒットを記録した。この曲はリアルタイムで体験したが、当時ラジオなんかではガンガンにかかりまくっていた記憶がある。今回より追加された"Harrison"が、彼の手による作品というだけでなく、レノン=マッカートニーによる曲だが彼の歌唱による、04.「Do You Want To Know A Secret」みたいな曲が含まれていたのはちょっとしたサプライズ。これはMary Wellsの歌唱だが、まったりとしてエロ可愛い。Fats Dominoの06.「Lovely Rita」はこのアルバムでの一番のお気に入りで、コミカルで飄々とした歌いっぷりは、思わず一緒に歌い出したくなるほど。



09.「A World Without Love」はそもそもピーター&ゴ−ドンがオリジナルだが、それをThe Supremesがカバーしたもの。ピーター・アッシャーは、当時のポールの恋人ジェーン・アッシャーの兄で、デビュー曲をポールが書いた。版権の関係上、作詞作曲はレノン=マッカートニーで登録されているが、ビートルズの曲ではない。このスプリームス版はオリジナルに近いアレンジだ。Junior Parkerの10.「Tomorrow Never Knows」は、サイケデリック・ミュージックの最高峰であるオリジナルとは正反対の超ダウナー系。オリジナルが思いっきりハイなのに対し、こちらは鎮静剤打ちました…みたいなw こういう解釈があるからこそ、この手のアルバムは面白い! 12.「With A Little Help From My Friends」はThe Undisputed Truthという聞きなれないアーティスト。このカバーはオリジナルよりも、むしろジョー・コッカーのバージョンに近いし、歌い方も彼をかなり意識しているものと思える。Ike & Tina Turnerによる 14.「She Came In Through The Bathroom Window」は、この選曲自体がかなり珍しいが、もう完全に彼らだけの世界で、アレンジもホーンセクション全開でバリバリのファンク。性欲むき出しでかなりエロい歌いっぷりだ(SheをHeに変えている)。19.「In My Life」はBoyz II Menによるもので、収録曲中で一番最近の録音(2009年)だ。曲の解釈はオリジナル通り。こんな曲を彼らに歌わせたら、向かうところ敵無しなんだな…思わず涙。



さて、"Harrison"作品で目を引くのがこのElla Fitzgeraldによる20.「Savoy Truffle」だろう。ただ、このアレンジはオリジナルにかなり近い。ジョージは本当はこんな感じで仕上げたかったのかなぁ。ただ、歌唱的な限界で、あんな風にボーカルやホーンをイコライジングして滅茶苦茶にしたのかもしれない…なんて妄想してしまう。オリジナルが秘めていた本来の力を彼女が解き放った、という感じだ。さて、本作中、一番の問題作?と言ってもいいかもしれないIsaac Hayesの21.「Something」。オリジナルは多くのカバー曲が存在することで有名だが、本作は11分45秒にも及ぶ超大作で、アレンジも緻密で奥が深い。曲の後半、もう終わるだろうと思いきや、なぜかヘイ・ジュード的な展開にw いったん宇宙まで持って行かれるが、やがて大気圏に再突入してフィドルが大爆発! ちょっとした「何か」でここまで世界観を広げてしまうとは、アイザック恐るべし。いや〜ホント、これだけ好き勝手にやりました的なカバーも珍しい。いいもん聴かせてもらいました。



というわけで、今回の第2弾も大いに楽しめました。というか、ビートルズファンであれば、持っていて損はない名盤だと思います。曲も22曲と多いのでお買い得! もう、こうなると第3弾もやってもらって、その時はついでに、"Starkey"も追加でお願いします。