ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の50周年記念盤を聴く(その2)

ビートルズサージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の50周年記念盤。購入した"スーパー・デラックス・ボックス・セット"では、2CD版のDisc-2「コンプリート・アーリー・テイク」が、2枚(Disc-2〜3)に拡充されている。



[Disc-2 コンプリート・アーリー・テイク]
2CD版ではSgtの収録順+「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」「ペニー・レイン」という順番だが、このボックス・セットでは、録音された順(時系列)での収録で、まだSgtのコンセプトが発案される以前に録音された「ストロベリー〜」からのスタートとなる。
3.ストロベリー・フィールズ・フォーエバー(Take-7)
完成版の前半部分に相当するテイクの全編。今回のストロベリー関連は、海賊盤で散々出回ったもので、もう出尽くした感がある。
4.ストロベリー・フィールズ・フォーエバー(Take-26)
完成版の後半部分に相当するテイクの全編。このテイクはジョンのボーカル入りだが、リダクションされた為、管弦楽器の音量と鮮度が大幅に落ちている。確かにエキセントリックなジョンのボーカルは魅力的だが、リダクション前(Take-25)の管弦楽器+逆行展開のシンバル+リンゴのヘヴィー極まりないドラムのみで構成された圧倒的な存在感には叶わない。

5.ストロベリー・フィールズ・フォーエバー(ステレオ・ミックス 2015)
『1+』のプロモ・クリップからのCD化だが、これの一体どこがアーリー・テイクなんだ??こんなもん要らないから、それなら代わりにTake-25を収録しろよ、と言いたい。要するに、最終形を提示したかったって事なんだろうけど、誰も2015年のミックスを(特にこのディスクで)聴きたいなんて思わない。こういった独りよがりの選択が、物事をつまらなくしていると思うのだが。
13.ア・デイ・イン・ザ・ライフ(ハムド・ラスト・コード Take-8.9.10.&11)
完成版のコーダ部分はピアノコードだが、それが採用される前の案が、このハミング版だった。ビートルズのバイブルとも言える書籍、「レコーディング・セッション」によれば、1965年2月10日、オーケストラのレコーディングが終わった後、友人達(少なくとも女性ひとりを含む)とでレコーディングされたという記述がある。その中には、ミック・ジャガーキース・リチャーズ、女性はパティやマリアンヌ・フェイスフル等の名前が見受けられるが、残念ながら誰が参加したのかの記述はない。
18.グッドモーニング・グッドモーニング(Take-8)
ビートルズのデビュー以降に製作されたレコード(特にアルバム)は、それ以前の、ライブ演奏の再現を前提として作られたそれと違って、アルバム自体がひとつの完成された作品として認識されるようになった。そして、レコーディング技術の発達とともに、ライブでの演奏が難しい曲が多くなっていったのも、また事実であった。ただ、楽曲は必ずライブでの再現が可能でなくてはならない、という足枷が外れ、それ以外の音楽的な可能性が一気に解放されたともいえる。ビートルズで言えば、『リボルバー』辺りから演奏不可能な曲が増えて行ったのだが、それは、ビートルズの曲は、演奏不可能な部分も重要な構成要素であるということを意味していた。だから、もしも、こういったアンソロジー的な作品集を作るのであれば、演奏以外の音(SE等)を取り上げないのは、いかにも不十分で、聴く者は納得がいかない、のである。
さて、この曲はそんなSEが幅を利かしている代表曲であり、かつ、生演奏の醍醐味も楽しめるといったお得な一曲といえるだろう。だからこそ、この演奏部分だけでなく、SE部分もきっちりと収録してほしかった。もちろん、この手のブート盤は広く出回っており、しかもそれがまた超高音質だったりするのだが。

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[Disc-3 コンプリート・アーリー・テイク]
10.ウィズイン・ユー、ウィズアウト・ユー(Take-1)、11.(ジョージ・コーチング・ザ・ミュージシャンズ)
インド音楽については正直詳しくはないので、録音装置が生まれる前まで、インド音楽がどのように継承されていたのかは知らない。当然ながら、西洋音楽の楽典を当て嵌めてその音楽を語ったりすることは多分難しいだろう。それは、日本の雅楽や、或いは三味線や琴と同じように、楽譜で表記できない表現技法が多すぎるからだ。例えば、日本でいうところの"ちんとんしゃん"みたいな教え方が、インド楽器にもあるのかはわからないが、ジョージのインド楽器奏者に教えるときの"ダマタ〜ニ、ニガ〜ガ"な〜んて摩訶不思議な言葉を聞けるだけでも、ファンとしては悶絶ものなのである。
12.シーズ・リーヴィング・ホーム(Take-1) 13.(Take-6)
ポールが都合の付かないジョージ・マーティンに無断で、勝手にマイク・リーンダーにスコアを依頼してしまったという、いわく付きの曲である。ここでは、マーティンがどうしても気に入らなかったチェロの一節を削除する前のインストを聴くことが出来る。何千何万回と聴いてきた曲の、聴きなれないこの一節が、頭に不意打ちを喰らわす。そもそもアウトテイクに嵌るってのは、そういう不意打ちの虜になるという事であり、それは、何千何万回と聴いていないと訪れない一瞬なのだろう。
14.ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ(Take-2)
初めて買ったビートルズのブート盤は映画『レット・イット・ビー』関連で、恐らく、アビーロード・スタジオ方面ではなく、映画関係の方面から出回ったと思われるもので、所々に映画の信号が入っていてかなり劣悪な音質だったと記憶している。ただ、聴いたことのない音源に大いに胸ときめかせたのはたしかなんだが、そのへっぽこな演奏ぶりにずいぶんと落胆した記憶もある。もしかして、ビートルズって下手なんじゃないの?と。もちろん、曲完成前のリハ音源だし、まあ、バンドで曲を固めていく作業ってのは、大体あんなものなんだが、中学生の耳にはちょいと理解できなかった。要するに、完成前から完璧なはずと思い込んでいたわけだ。このテイクもかなりへっぽこなんだが、その一番の理由は、特徴的なあのポールのベースが入っていないから。自分はこの曲を聴くときは、リンゴのメインのメロディーとジョージ等のコーラス、そしてポールのベースラインが完璧に頭の中で3次元構造となって記憶されており、それをなぞりながら楽しんでいるのだ。バンドや多重録音の経験がない人にとっては、優れた楽曲も、こうやって骨となる部分から作られていくんだという判り易い見本となるテイクだろう。



[Disc-4 モノ・アルバム&ボーナス・トラック]
ここでは、モノとステレオ・ミックスの違いは解説しないが、モノ・アルバムは09リマスターとは違うものが使われている様だ。また、インナー・グルーヴ(一番最後のテープの切り張りで作られたSE)はリピートせずに1回で終わる仕様だ。
ボートラは各種モノ・ミックスが収録され、これらは初出となるものが多い。19.ペニー・レインはキャピトルのプロモ盤モノ・ミックスだが、最後にトランペットがリフレインされている。昔、『レアリティーズ』というレコードにステレオ版が収録されて話題になったが、実はその時は単にリフレイン部分を切り張りしただけのまがい物だったらしい。こちらは多分本物だろう。



[Disc-5、6 ブルーレイ&DVD]

こちらは、映像作品と、高音質ファイルによるアルバム(Disc-1)全曲となっている。映像作品はリストアされた『Sgt』のメイキングと『1+』に収録された「ア・デイ〜」「ストロベリー〜」「ペニー・レイン」の4kリストア版だ。画質は、DVDはブルーレイの足元にも及ばないのは言うまでもない。音声ファイルの方はDVD盤が…
DTS 5.1
Dolby Didital 5.1
LPCM Stereoで、
ブルーレイ盤は…
DTS HD Master Audio 5.1
Dolby True HD 5.1
High Resolution audio in 96KHz/24bit LPCM Stereo
で収録されている。
以上、この項完。