お正月に何を聴く? 2019(その1)

数年ぶりに復活のこのテーマ。しかし、もう1月も終わろうとしている今、こんな記事に興味を持つ人もあまりいないだろうという予感もするが、とりあえず、まあ、新年一発目という事で、早速行ってみよう!

ところで、ここ数年、元日は「座音会」という音楽サークル?(笑)の新年会で、お察しの通り、新座のとある秘密基地にて、飲めや歌えの大騒ぎが行われており、その後2~3日は、ブログを書く気力さえも湧かない。そんなわけで、このテーマもついつい書きそびれてしまっていたというわけ。しかし、今年は年末に数枚のCDを手に入れたんだが、こいつがずごぶる良くて、年末年始はこれで随分と楽しませてもらった。まあ、そんなわけで、これらのブツについて是非とも書き留めておこうと思った次第だ。

さて、暮れに入手したアルバムは全部で6枚。まずは、そのうちの2枚だが、数年前にSONYから限定生産で発売された「ギターレジェンドシリーズ」からだ。これは1枚1000円(2枚組1500円)という価格で、文字通りギターの名手にスポットを当てた企画。もちろん、超名盤ばかりだが、限定生産という事で、いつか買おう買おうと思っているうちに、あちこちのネットショップでちらほらと品切れの表示を見かけるようになった。まあ、安い事は安いんだが、輸入盤ならこの程度か、もうちっと安いんで、別段急ぐことはない。更に、これは後で判ったんだが、実はこのシリーズ、歌詞カードが入っていない。入っているのは薄い紙の解説書だけで、まあ、それでも読む価値は十分あるんだが、対訳はともかく、歌詞だけは付けてほしかった。話を戻そう。このシリーズ、実は去年第2弾が発売されたんだが、まず、第1弾から『フィルモアの奇蹟』(The Live Adventures Of Mike Bloomfield And Al Kooper )、そして第2弾から『偉大なる復活』(Before The Flood-BOB DYLAN / THE BABD)を購入した。『フィルモア』はカセットで所有していたが、愛聴盤になるまでには至らなかった。しかし、ここに来て、急にこの手のセッションアルバムが聴きたくなってしまった。チョイスしたのには別のちょっとした理由もあるんだが、それは後ほど。そして、ディランとザ・バンドの共同名義によるアルバム。こっちは全くの未聴盤だが、ディランの曲に関しては、ほぼ知ってる曲ばかり。対して、ザ・バンドの曲はほぼ知らない。というのも、実はこの手のサウンド(当時はサザンロックと言われていたがザ・バンドはカナダ出身)にあまり興味が湧かなかったので、つい素通りしていたというのが本音。したがって、表面をなぞったくらいで、実際に買ってまで聴こうとは思わなかったのだ。ただ、近年、ディラン関連のドキュメンタリー等を見るにつけ、その存在をオミット出来なくなっていて、そこで、この共同名義である『復活』をチョイスしたのだ。このシリーズはギターレジェンドだから、エントリーされたのは、恐らくディランのギターではなく、ロビ-・ロバートソンのそれに違いないだろう。しかし、彼のギターが凄いのはともかく、ザ・バンドのバンド自体の演奏が完璧すぎて、非の打ち所がない。特に、レヴォン・ヘルムのドラムが最高で、ドラマーにとってお手本の様な演奏を堪能することが出来る。それにしても、この2枚、名盤と称されるだけあって、本当に聴き応えがある。正直、聴いていて、聴き流すという事が出来ない。例えば、何か本を読みながら、とか、PCに向かいながら、なんて事をしていても、気が付けば、じっと耳を傾けているだけの自分がそこにいるのだ。 

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フィルモアの奇蹟』(The Live Adventures Of Mike Bloomfield And Al Kooper )1969

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『偉大なる復活』(Before The Flood-BOB DYLAN / THE BABD)1974

 

では、次に行こう。先にも述べたが、基本的にアメリカの南部だとか、西海岸だとか、その辺りの音楽ってのは、当時中学生だった自分にはちょっと馴染みがなくて、直接そこへ飛び込んだりすると大やけどを負ったりする。それは、クラプトンの『安息の地を求めて』で実証済みで(こちらはスワンプとレゲエの融合。何度も書くが、今ではマストアイテム)、とりあえず、この辺りのアルバムにはうかつに手は出せないという雰囲気だった。結局音楽好きな仲間が誰も買わなければ、聴かれることのない音楽ということになっちゃう。

ところが、である。何かのきっかけで、空前の大ブームを起こしたバンドのメンバーが、当時こんなバンドに影響を受けました…なんて発言をすると、俄然興味が湧いてきて、どうしても聴きたい!となるわけだ。発言元はYMOの…というより「はっぴぃえんど」の細野晴臣、そのバンドはバッファロー・スプリングフィールド、そして、モビー・グレープだった。それでも、当時は、すぐにそれらを聴く事が出来るような環境ではなかったし、何よりも懐具合が寂しすぎた(笑)。モビー・グレープのセカンド『Wow』を聴いたのはもう10数年前だが、このバンド、いろいろと問題を抱えていて(Wiki辺りを参考にしてもらいたい)、アルバムの入手がなかなか難しいので有名だ。せっかくリイシューされたと思ったらすぐに廃盤になったりと、マニアにとってはなかなかの曲者。そんな彼らの、永らく廃盤になっていた1st『モビー・グレープ』(1967)がリイシューされると聞いたのは、2018年の暮れも押し迫った発売日の前日。すぐに注文を入れて、年末までになんとか到着した。その音を聴いた第一印象は、何といってもハンパない疾走感だった。『Wow』は様々なアイデアがてんこ盛りで、サイケデリックなアプローチが満載だが、いかんせん、奇をてらい過ぎて、いささか空回りしてる感が強かった。しかし、この1stは、そういったアイデアはあまりなく、直球勝負といった感がある。全員がVoを取れるというのは強力な武器で、頭からほぼ全員で畳みかけるコーラスワークは最強。まるでジェットコースターに乗っているかの如き疾走感に頭が痺れる。この疾走感の要は、ボブ・モズレーの弾く躍動感あふれるベースだろう。中にはキャッチーなワンフレーズを延々繰り返すだけの曲すらあって、何でも、このアルバムから5枚のシングルがカットされたそうだ。それももちろん頷ける(ただし、そういった行動があまりにも商業的すぎるとの批判から、ほとんど売れなかったらしい)が、中にはしっとりとした抒情的小作品もあり、それがまたいいアクセントとなって、アルバムを際立たせている。個人的には『Wow』よりも、こちらの方がいい出来だと思う。埋もれた名盤といっても過言ではない、素晴らしいアルバムだ。

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ドン・スティーヴンソンの右手中指が修正される前のジャケットは好感が持てるが、リイシュー元のオールデイズレコードのロゴがジャケの右上にあるのと、ジャケの下にはオリジナルフォント(字体)と異なる品番が印刷されているのは無粋というものだろう。

 

youtu.be

ここで、もう少し『Wow』の話をしたい。実はこのアルバム、発売当時の初回盤には、おまけ盤としてジャムセッションを丸々1枚収めた盤が付いていた。その名も『Grape Jam』。これは全くの個人的推測なんだが、このアルバムの発売が1968年で、ジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』(1970)よりも2年早いのだ。つまり、ジョージはこのアルバムからヒントを得て、3枚組のうちの1枚を丸々ジャムセッションにして、そのタイトルを「Apple Jam」にしたのではないか? もちろん、確たる証拠も何もないんだが…。そしてもうひとつ。実はこの「Grape Jam」にはマイク・ブルームフィールドとアル・クーパーが参加しているのだ!先に紹介した『フィルモア…』が発売されたのが1969年だから、これよりほんの1年前という事になる。更にもうひとつの事実。この「Grape Jam」に参加する前、ふたりはディランの『追憶のハイウェイ61』(1965)のレコーディングに参加しているのだが、言うまでもなく、このアルバムのセッションで、ディランのバンド化が一気に加速したわけだ。そういった意味で、実に不思議な縁がこの3組のミュージシャンを繋げているのだ。これが先に述べた『フィルモア…』をチョイスした理由である。

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モビー・グレープの2nd『Wow』。サイケデリックな内容でギミックも多い。78回転でプレイしろ、な~んて曲もある。

この項続く。