ジョージ・ハリスンのBOX SET『Dark Horse Years 1976-92』を聴く(その1)

CDのBOXセットってのは随分と罪作りな代物で、何か持ってるだけで満足しちゃう。さすがにそれはまずいだろうって事で、一応、通り一遍は聴いてみる。聴いてはみるけどさ、たかだか1回や2回聴いただけで、作品の本質を理解できるはずもなく、まあこんなもんか、なーんて適当な評価を下して、その後数年、いや、下手すりゃ二度と聴かなかったりする。しかしだ!今回のBOXセットはきちんと聴きましたよ。約1か月間、このBOXだけを。だってさ、中二の頃(象徴的表現)なんて、それこそ毎日毎日、毎晩毎晩、飽きもせず一枚のアルバムを半年くらいずーっと聴いて、全曲を完全に理解していたわけじゃん。それを考えたら、いくらでも(というか、タダでも)聴ける今の状況ってのは、音楽好きにとっては逆に不幸なんじゃないかとすら思えてくるのだ。でもまあ、こんなに思い定めなきゃまともに聴けないなんて、なんとも情けない。

 

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さて、今回のこの『Dark Horse Years 1976-92』、ブログにも書いたが、とにかく値段がクソ高い。買ったのはCapitolのBOXで、なんでも大量のデッドストックがどこぞの倉庫で見つかったのだそうだ。それまでは廃盤扱いで、数万の値が付いていたが、そもそも日本盤は、2万7千円という定価で、一体全体何をどうすりゃこの価格になるのか、さっぱり理解できなかった。今回は1万9千円プラス約5千円のクーポンが貰えて、実質1万4千円だったが、現在は1万5千円程度まで価格は落ちている。ていうか、デッドストックってどんだけ倉庫に眠ってたんだって話だよな(笑) このBOXのうち、全てのアルバムが未入手だが(いや、だからそれでジョージファンを気取るなよ!)、未聴盤は『ゴーン・トロッポ』のみ。他は一応聴いてはいる。ただ、当時の記憶を辿ると、夢中になって聴いた記憶がない。『33 1/3』"Thirty Three & 1/3"が77年でまだ何とか。しかし、『慈愛の輝き』"George Harrison" は79年。周囲はとうに騒がしくなっているはず。恐らく当時の自分の感覚と、ジョージの作品から受ける感覚が完全に乖離していたのだろう。それ以降は、一応は聴いてみるものの、興味は失いつつあったというのが正直なところだろう。

 

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というわけで、まずは1枚目、『33 1/3』(1977)。リアルタイムで聴いた初めてのジョージは『ジョージ・ハリスン帝国』"Extra Texture"(1975) だったが、これはその翌々年発売された。そして、まだ周囲にはジョージのレコードを購入している友達がいた。もちろん、カセットに録音して繰り返し聴いてはみたものの、何かしっくり来なかった。しかし、この作品、今聴くとかなり味がある。バックのミュージシャンはさらりと演奏してはいるが、曲自体は演奏難易度が高いものが多い。01.Woman Don't you Cry For Me ~03.Beautiful Girlの流れなんてカッコよく決まり過ぎだし、01.なんてリズム的にはダンサンブルで、ウィリー・ウィークスのファンキーなベースがかなり痺れる。それと、よく引き合いに出される、AORの先駆け、といったジョージに対する評価だが、時代としてはそういうものがパンクやテクノとは別のベクトルを持ったものとして同時に存在していた事は確かだ。具体的にはこのアルバムに参加しているリチャード・ティーが在籍していたスタッフ(Stuff)の1st『Stuff』が76年に発売されているが、08.Pure Smokey なんて、導入部分からしてスタッフの雰囲気が有りすぎるほどだ。当時、スタッフのアルバムはよく聴いていたはずなのに、それに気付くこともなく、ただジョージ通を気取っていた、嫌な糞ガキだったんだと思う。ごめんよジョージ。

 

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お次は『慈愛の輝き』"George Harrison"(1979)。自分にとっての思い出は、何はなくとも 02.Not Guilty なのである。当時はビートルズのバイブル『レコーディングセッション』も無かったし、『アンソロジーも発売されていなかった頃、この曲は既に海賊盤で聴いていたのだ。もちろん音質は劣悪で、それもしばらくして(本当に金欠で)売ってしまったので、今となっては何というタイトルの海賊盤だったのかも憶えていないんだが、とにかくビートルズの未発表、しかもジョージの曲というだけで、それはもう幻の名曲だったわけだ。それが、こうしてソロアルバムで発表されること自体が、もう事件、だったのである。実際に聴いてみると、本質はビートルズバージョンと変わらないと思うのだが、年月を経た分、こちらの方が洗練されて大人っぽいし、そしてより一層鬱々としている。アルバム全体としては 01.Love Comes to Everyone に代表されるように、前作同様AORっぽい雰囲気を纏っている。特に、前作から引き続き起用されたベーシスト、ウィリー・ウィークスのテクが冴えわたり、完璧なゴーストノートを体感できる。曲は前作よりも甘めなものが多く、03.Here Comes The Moon 07.Dark Sweet Lady 08.Your Love Is Forever などもその類の曲だが、反して 09.Soft Touch は明るくポップで稀有な存在。このAORっぽくない感覚が逆にいい。 (この項、続く)