PRISM『SECOND THOUGHTS / SECOND MOVE』(SACD)を買ったわけ。

このアルバムが出た1978年当時ってのは、音楽的ブームとして、まず、フュージョン/クロスオーバーがあった。その前の76~77年ってのが凄い年で、キッス、クィーン、エアロスミスの御三家の人気が爆発した一方、ベイ・シティ・ローラーズの人気が女子の間で大爆発! しかも第二次ビートルズブームの到来があり、そこへパンク勢が割り込んできた感じ。しかし、日本でのパンクムーブメントってのはあまり印象になくて、つまり、ロンドンパンクでもNYパンクでもなく、何故か西海岸の陽気な女の子グループ、ランナウェイズの人気が沸騰していたのだ。でもね、まあ、可愛かったのよ、Voのシェリー・カーリーが。ベビーフェイスにプラチナブロンドで下着姿、これ人気が出ない方がおかしい(笑)。

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さて、そんな中で、『ギター殺人者の凱旋』で人気を博していたジェフ・ベックが『ワイアード』を発表するや否や、超大ヒットを飛ばすんだけど、これで音楽界の流れがガラッと変わった感があった。ジャズ界からは、チック・コリア率いるリターン・トゥ・フォーエヴァーが完全にエレクトリック化して、更に、メンバーのスタンリー・クラークジェフ・ベックと合流して来日と、正にフージョン人気ここに極まれりといった感があった。
そして、日本に於いてこのブームをけん引していたのがプリズムであった。和田アキラ森園勝敏といった超絶技巧派のギタリストを筆頭に、渡辺建、伊藤弘毅、鈴木リカ徹といった凄腕プレイヤーを擁した大人気バンドで、チケットは即完だった。金もコネも無いバンド少年達は、学園祭のライブへ足を運ぶ事でしか、お目に掛かる方法がなかった。
…それは、まさに青天の霹靂であった。友人の女の子が、父親の仕事の関係で、プリズムのチケットがタダで手に入ったのだという。しかも5人分!! これはね、もう一生の運を使い果たしたくらいの行幸!まさに至福!だったわけです。ただ、このコンサートはイベント的なもので、実はコルグが新製品の発表に併せて企画したものだった。最初はシンセの紹介から始まって、後半がライブだったと記憶している。ただし、会場は新橋のヤクルトホールだったので、やっつけという感じはまったくなく、フルではなかったものの、その演奏を十分堪能することが出来た。しかしこのイベント、ここで終わりじゃなかった。なんと、ライブの終了後に抽選会があって、景品はコルグ製品やプリズムのグッズだった。しかも、これ、新製品の発表イベントだったから、やたらと当選確率が甘い! 結果、友人はコルグの小型電子チューナー(今時のサイズからすればデカイ(笑))をゲット。自分は最新アルバムである『SECOND THOUGHTS / SECOND MOVE』が当選し(記憶では)伊藤弘毅から手渡された。あとは、コルグのステッカーなんかも貰ったような気もする。とまあ、これは、なんとも楽しい青春時代の思い出だ。
ところがこのフュージョンブーム、YMO、新生RCサクセション等の人気が沸騰し、続くテクノ御三家、プラスチックスヒカシューP-MODELの台頭などで、それこそ「あっ!」という間に人気が凋落してしまう。当時は、感性こそが最重要で、演奏テクニックなんてのは二の次っていう風潮がまかり通っていたので、それこそフュージョンプログレバンドなんてのは完全に行き場を失っていた。
そんな中、自分に訪れたのが貧乏ブーム、いや、これはずーっと訪れてるけど(笑)、本当に困窮していた頃、金になるものがひとつだけ手元にあった。そう、レコードだ!
チョイスしたのはビートルズやディープ・パープルのブート盤数枚。いや、さすがに正規盤は売らなかったね。そして、邦楽が数枚。その中の一枚が、この『SECOND THOUGHTS / SECOND MOVE』であった。買取金額は忘れたが、なんだかんだでビートルズのブートがほとんど原価(つまり価値が上がっていた)で引き取り。他のブートもそこそこ、そして邦楽は…まあこんなもんかの金額。でもね、この、レコードを売る、という行為、まあ、人それぞれの価値観や事情にもよるんだろうけど、しばらくして大後悔したんですよ。つまりマテリアルとしてのそれを売ってしまったという事よりも、それに付随する思い出も一緒に消えてしまった気がしたわけです。つまり、本当ならレコード盤に針を落とし、ジャケットを眺めながら、かつて観たヤクルトホールでのコンサートを思い浮かべながら曲を堪能できたはず。それがもう叶わない…、この現実を思い知らされたわけです。少なくともこの『SECOND THOUGHTS / SECOND MOVE』においては、同じものを買い直したとしても、それはやはり、違うもの、という気持ちが強かった。
この出来事は生涯の教訓として刻まれ、以降、レコード、CDだけは売ってはならないという掟が出来上がったわけです。そして、最近になって更に思い知らされたのは、これらのライブラリーってのがいつ必要になるかわからないってこと。実はバンドのメンバーに、とあるアーティストのアルバムを紹介したんだけど、それは、自分ですら、もう何年も手にすることのなかったアルバムだったんだが、それを機に、自分の中でもブームが再燃して、最近のアルバムや、未入手だったアルバムを遡って買ったりと、まあ、人生、どこでどうなるのか判らんものだと思った次第。

さて、本題。
PRISM『SECOND THOUGHTS / SECOND MOVE』。今回購入したのは、2003年という古いリイシュー盤の方で、ハイブリッドのSACD盤だ。現在いくつかの再発盤が存在しているが、どの盤にも同じボーナストラックが収録されている。そのうちの2曲はライブで、その時不参加だった鈴木リカの代役として村上ポンタ秀一がドラムを担当している。
和田アキラの訃報を受け、まず思い浮かんだのがこのアルバムと、それを売ってしまった苦い思い出だった。そしてこのCDの購入を検討していた時に、追い打ちをかけるように飛び込んできた、ポンタの訃報。何やら因縁めいているが、とにかくこのアルバムを再び聴くきっかけになったわけだ。
数十年ぶりに聴くアルバムは、全く色褪せることなく、思い出が脳内いっぱいに広がる。メロディーやフレーズのひとつひとつが、いとも簡単に蘇ってくる。あれ、これってこんなに聴き込んでたんだ!と自分でも驚愕するほど。
随分と長い時間がかかったけど、ようやく会えたんだな。

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