タイムマシンにおねがい

柔らかな日差しの降り注ぐ昼下がり。銀行と郵便局で用事を済ませての帰り道、抜け道の公園には小さな噴水があって、もちろんもう水は止まっているのだけれど、その噴水のふちに、とてもお洒落な身なりの老人がちょこらんと座っていた。中折れ帽に細身のスーツ、胸元にはピンズ、そして傍らにはトランジスタラジオ。そこからは軽快な音楽が流れていて、彼はその曲に時たま頷くみたく軽くリズムをとっていた。これからお孫さんとデートでもするのかしら?などと考えながら、その横を通り過ぎて、パタと足が止まった。なんと、ラジオからミカバンドの「タイムマシンにおねがい」が流れているではないか! 思わず振り返ると、恐らくその気配を察したであろうその老人が、おもむろに顔を上げ、一瞬視線が合ってしまった。次の瞬間、彼はニコリと笑った。それにつられる様にこちらも笑みを返し、そしてまた、何事も無かったかの様に再び帰路へと歩みを進めた。何だか奇跡みたいな出来事だが、極めてシュールな光景の様な気もする。お洒落な老人、トランジスタラジオ、ミカバンド…。帰り道、彼のあの笑みについて考えていた。彼は、実は高名な音楽評論家で、「おや、キミもミカバンドは好きかい?」と言っていたのかもしれない。いや、実はかつて凄腕ミュージシャンで音楽が三度の飯より好きだ、とか。いや、もしかすると、超敏腕プロデューサーで「ミカバンドはわしが育てた」w とか……。そうして、ちょっとタイムマシンにお願いして、彼の若い頃を覗きに行けたらなあ、などとくだらない想いを巡らせながら、帰路を急いだのだった。