追悼、加藤周一

評論家の加藤周一氏が5日に亡くなられた。89歳であった。朝日新聞の連載「夕陽妄語」が9月頃から休載になり、少しばかり嫌な予感はしていたのだが、まことに残念である。「九条の会」呼びかけ人の一人でもあったが、それは原爆投下直後に医師(血液学)として調査に訪れた広島で、その惨状を目の当たりにした事が根底にあったからであろう。この時の話は「夕陽妄語」にも度々登場していた。しかし評論家としての彼の凄さは、それが社会的、政治的な事象だけにとどまらず、国内外の、史学、文学、芸術、音楽等、多岐に亘っていたところにある。かつては平凡社「世界大百科事典」の編集長を務めたこともあり、まさに知識の宝庫、文字通りの「生き字引」といった人であった。その知識の豊富さゆえ、文学や芸術方面における評論では、こちらの知識が全く追いつかず、評論を読んだ後に一からの勉強を余儀なくされるという、言わば、後追い作業に追いやられるのが常であった。そしてこれから先も、彼の著書に目を通す度にそれは繰り返されるのだろう。ご冥福をお祈りいたします。