お正月に何を聴く? 2014

以前、評論家の加藤周一が死去した際に、彼の脳に蓄積されたあの圧倒的なまでの知識は、一体どうなってしまうのだろう?などとぼんやりと考えたのだが、もちろんそれは、どうもなりはしないし、記憶や記録としては残るが、脳みそは荼毘に付されると同時に灰になるだけだ。昨年の大晦日大滝詠一の死にあたり、盟友細野晴臣がコメントしたが、彼は同じ様な事を言っていた。即ち、彼の、あの圧倒的なまでの洋楽ポップスに対する知識は、一体どうなってしまうのだろう?と。日本だけでなく海外を含めても、あれだけの知識を有する音楽家や音楽評論家は殆どいないだろう。しかし、当たり前だが、やはり同じ様に、この知識は灰となるだけだ。もちろん、それを継承する者はいるだろうが、彼独特の解釈でそれを評論する事はもう出来ないのだ。

正月早々、ちょいと湿っぽくなったが、とりあえず、今年も正月に何を聴く?か考えた。いや、考えるまでも無く、決まっていた。最初はやはりこの1枚、『ナイアガラカレンダー』だろう。とにもかくにも、彼からの「Rock'n'Rollお年玉」を貰わない事には、今年のこの1年は始まらないのだ。一番新しいリイシュー盤は2008年の30周年記念盤で、78年オリジナルと81年リミックスが同時に収録されている(収録時間の関係上、一部イレギュラー)ので、約80分間、彼の音楽知識に裏打ちされた才能の塊を耳にする事が出来るのだ。しかし、このアルバム、何度聴いても飽きが来ないのは、やはりノベルティソングとシリアスソングの配分が秀逸だからだと思う。こういったアイデアを思いつくことは簡単だが、ここまで計算されて作り上げるのは至難だ。もちろん、これは彼にとって不遇な時代に発表されたので、当時セールス的には芳しくなかったのは言うまでもないが…。
さて、お次は『ゴー!ゴー! ナイアガラ』である。これも飽きる事無く聴ける1枚だが、以前にも書いたが、個人的には86年にリイシューされた吉田保によるリミックス盤が好きだ。しかし、30周年記念盤で初めて聴いた76年オリジナルもこれはこれで味があってよい。一番のお気に入りは「今宵こそ」だが、オリジナルではバックのコーラスがまるでマントラを詠唱するかの如く響き渡り、リードヴォーカルはその中に埋没してしまうという、壮大なミックスだ。とは言うものの、このミックスが正しい、と評価する人間はあまりいないだろうし、これを世の中に出して許されるのは大滝詠一だけだろう。


「今宵こそ」'86 リミックス


「今宵こそ」'76 オリジナル

さて、今年も薄く酔っ払い続ける筈だったが、ちょっと酔いに疲れたのか睡魔に襲われた。その時聴いていたのがシリア・ポールのアルバム『夢で逢えたら』だ。ほんのひと月前、この「夢で逢えたら」について会話を交わしたり、松田聖子のアルバム『風立ちぬ』をこのブログで紹介したりと、なぜか急に大滝の話題が身の回りに起きたのが不思議でならない。まあ、大滝本人と夢で逢えても色気もへったくれも無いが、しかし、彼の作品を聴き続ける事で、彼とはいつでも会えるのだ。ただ、彼のライフワークになっていたであろう、自身の作品群のリイシュー作業がここで終了してしまったのは残念でならない。「レイクサイド・ストーリー」の大団円バージョンのリイシューはもう無いのだ。





Niagara Sound Forever ! あらためてご冥福をお祈りいたします。