続・ビーチ・ボーイズの『SMiLE』どーする?

前回より続き。
ビートルズのアルバム『Let It Be... Naked』が当時の取り決めを反故にする形で、音だけを解体再構築してしまった時点で、矛盾を抱え込んでしまったわけだが、この『SMiLE』はどうだろう? そもそも今回のこのプロジェクトはキャピトル主導の下で行われ、ブライアン・ウィルソンは作業には深く関わらず、直接音を弄ったりしたわけではないそうだ。そう考えると、恐らく、当時の体験を共有していない世代が、彼のソロ名義で出した『SMiLE』を下敷きに再構築したと考えるのが妥当だろう。『Let It Be』は、それがどんな形であれ(即ち『Get Back』ではなかったが)、1970年の当時、世の中に出たという事実が、全てに於いての正しさの源となっているのだが(要するに、オリジナルである事)、『SMiLE』の場合、そもそもが未完成であり、世の中には出なかった。つまり、正しいとされるものが存在していない。たった今、40数年間お腹の中にいた胎児が、老婆の母体よりオギャーと生まれ出たというわけだ。この中年の新生児へ、当時思い描いていたであろう構想に基いて化粧を施したところで、初めて聴く側にとっては、化け物みたいなものでしかない。事実、この作品の評価を見ると、「わけわからん」というようなものが多いのだ。今月号の『レコードコレクターズ』(2011年12月号)はこの『SMiLE』の特集で、ブライアンのインタビューが掲載されている。それを読むと、このアルバムが今になってリリースされた理由について、当時は「先鋭的、前衛的すぎた」ので2004年に発表した、と発言している。この2004年というのはブライアン名義の『SMiLE』である。つまり、質問と回答が噛み合っていない。この部分は、何となく、オリジナル音源で出すつもりは無かったという様なニュアンスとして受け止めることが出来る。音楽家としては、中年の新生児をいきなり世に出すわけには行かなかったのかもしれない。
『... Naked』はポールの怨念によって生み出された様なものかもしれないが、『SMiLE』はファンによる祈りの様なものだった。当時、未完成であったその音源は、その後にリリースされたいくつかのアルバムに組み込まれたし、アルバムは丸ごと海賊盤で聴くことも出来た。そして何よりも、ブライアン名義ではあるが、焼き直しの『SMiLE』も発表された。従って、当時彼が思い描いていたであろうアルバム像はなんとなく体験することは可能であった。ただ、何度も書いているように、オリジナルのそれは、当時世に出なかったのだ。ファンは、この不遇のアルバムを憐れみ、正式なリリースを祈り続けた。しかし、それは何時まで経っても叶わず、空想の世界のみで完成する、言わば神話の様なものになって行ったのだ。そして今、現実を眼前に晒された私達は、これから先、この『SMiLE』を神話として語って行くのだろうか? それとも、もう神話ではないのか? いや、そうではなく、最初から神話ですらなかったのか? もうそれすらも判らない。
ねぇ君、『SMiLE』どーする?

スマイル

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レコード・コレクターズ 2011年 12月号

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