松田聖子のSACD/CDハイブリッド盤を聴く〜第2チクルス『North Wind』『Silhouette』編

松田聖子SACD化プロジェクトの第2チクルスの第1弾『North Wind』『Silhouette』が発売になった。前回の徹を踏まぬよう、今回は予約開始日に予約、入金を済ませておいた。その甲斐あってか、発売日当日に無事郵送されてきた。パッケージは第1チクルス同様、デジパックに従来のCDと同じ歌詞カード、それに、オーディオマニア向けの解説書(SACD PRODUCTION NOTE。4ページだが、実質的には2ページ)が付属する。唯一違うのが帯(タスキ)に描かれた文章で、前回は簡単な紹介文だったのが、今回よりオリジナルに記載されていた文章とレイアウトとなっている。もちろん、これに「Stereo Sound」と「SACD」のロゴマークが入る。
リマスターの方向性は従来と変わらず、基本的にはアナログ盤の再現ではなく、マスターテープに収録された音を、出来る限り損なわない状態で再現するという事。従って、イコライザーや音量調整等は必要最低限に留めてある。



さて、早速聴いてみよう。まずは2ndアルバムとなる『North Wind』から。以前書いた通り、個人的に松田聖子のファンになったのが『風立ちぬ』からなので、今回の2枚は、当時後追いで聴いたもので、また、CDも一度も購入していなかった。従って、このSACDを聴いたその瞬間に、音の違いを感じ取る事は不可能である。だが、実際に聴いてみると、当時のアナログ盤と少々雰囲気が違うように感じる。これはプロダクションノートにも書かれているが、本作のアナログマスターが、マルチマスターから直接アナログ2chに落とした第1世代のテープであることに起因するのだろう。つまり、曲順もバラバラだし、本作とは別に録音されたシングル曲「風は秋色」とそのB面の「Eighteen」との摺り合わせもない。このため、これらの曲とその前後の曲の間にはかなりの違和感を感じるのだ。特にVoの空間処理の方向性が全く異なるため、どうしても浮いてしまうのは否めない。また、シングル以外の8曲は、暖色系を全面に押し出しているため(前作『SQUALL』がトロピカルをイメージしたのに対して、本作はクリスマス辺りの季節を標榜している)、ダイナミックレンジも抑え気味に録音されているのだそうだ。音の印象としては、やはり、温か味のある音で、かなり丸い。ただし、団子の様な音の塊ではなく、あくまでも、音が丸みを帯びているということ。この辺り、SACDの奥の深さに脱帽する。白眉はなんといっても名曲「Only My Love」。まだまだ荒削りではあるものの、伸びやかで艶のある歌声は、そのディテールを損なうこと無く瑞々しさを持って眼前に展開される。



続く3rdアルバム『Silhouette』は、大ヒットシングル「夏の扉」を含む夏向けのアルバムとなっている。この頃の彼女は、かなりオーバーワーク気味で、既に声が掠れ始めている。当時はそれ程気にならなかったが、しっとりと歌い上げる「ナイーブ」に於いてそれが顕著で、あまりの生々しさに何やらもの悲しさすら覚えるのはSACD化の功罪か。音の傾向はやはり夏向きだけあって、色温度の高い明るい色調だが、低音域に膨らみがみられる。全体的にストリングスによく艶が乗り、深みのある表情を覗かせる。シングル「チェリーブラッサム」「夏の扉」のみ他曲との音の傾向が多少違うので周りから浮いてしまっているが、リイシューの方針として各曲間のすり合わせの様な事はしないので、原曲そのものの音を感じ取ってほしい。

ところで、この第2チクルスの第2弾、発売開始早々『Silhouette』が残り僅かになったり、第3弾の『Tinker Bell』が予約開始早々完売になったりと、なんとなく品薄感が漂っているが、もしかすると、第1チクルスに比べビッグタイトルが少ないため、プレス数が少なめに押さえられているのかもしれない。その場合でも、追加プレスの可能性は非常に薄いと思われるので、入手したい方はお早めに。
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