松田聖子のSACD/CDハイブリッド盤を聴く〜『金色のリボン』編

雑誌"StereoSound"による松田聖子SACD/CDのハイブリッド盤第3チクルス。その第一弾となる『金色のリボン』と『Snow Garden』が発売になった。このうち『金色のリボン』はアルバム単体による再発は今までされておらず(10万円のCDボックスセットでのみ製品化された)、待望の初CD、SACD化となる。
『金色のリボン』は1982年、アルバム『Candy』の発売後に発表されたクリスマスアルバムで、アナログ盤2枚組のうち、1枚目が12インチ45回転(当然、高音質)、2枚目が33.1/3回転という変則的な仕様で発売された。1枚目は"Blue Christmas"というタイトルで、クリスマスソングが収録。2枚目は"Seiko・ensemble"で、新録やバージョン違いを含むベスト盤的な内容となっている。本SACDではこの2枚をひとつにまとめたもので、SACDとCDのハイブリッド盤である(CDはSACDDSDファイルをPCM化したものなので、本作独自のリマスターという事になる)。また、1枚目は全てが初SACD化となるが、2枚目には既にSACD化された曲が5曲ある。これらの曲は新たな作業は行われず、既発SACD音源をそのまま流用している。これはこのプロジェクトに基本方針で、各曲はあくまでもオリジナル・マスターの音を尊重し、各曲間での摺り合わせのような作業は行われない。従って、全く質感の異なる曲が1枚のアルバムに同居することとなるため、摺り合わせの行われた従来の作品とは、全体的な印象が違ってくる。録音、音質的な事も含めて、エンジニアの意向が如実に伝わってくるのだ。


残念ながらオリジナルに付属していた写真集はなし。デジパック仕様。税込4,860円

さて、本題。このアルバムの、特にアナログ盤1枚目までの部分は耳タコで、細かな部分までしっかりと耳に刻み込まれているので、今回は1〜5のみのレビューとさせていただく。1.のクリスマスメドレー。冒頭のSEがかなりインパクトのある鳴り方をしたのに驚く。この吹雪のSEで一気に真冬の世界へともって行かれる。ただ、色に例えるなら暖色系の照明といった感じで、丸みを帯びた音色だ。シンセはリング・モジュレーター系の音やスチーム・オルガン系の音など、録音としては恐らく非常に扱いづらいものなんだろうけど、とても綺麗に録れているのが判る。2.「恋人がサンタクロース」。確か、松田聖子初となるカバー曲だと記憶しているが、オリジナルよりもずっと疾走感があって、曲のキモとなるギターが信じられないくらい艶やかに鳴り響いている。今まで埋もれがちだったギターのダウンストロークが意外とロックしてるなと気付かされる。3.「Blue Christmas」はしっとりとしたバラードだが、リバーブも綺麗に響いており、バックのコーラス隊との相性も抜群だ。4.「ジングルベルも聞こえない」は冒頭のSEに続くピアノのイントロから、Aメロでシンセベースが軽快に響く印象的な曲。出張り過ぎないSAXのバランスがいい。後半でずーっと鳴っているキラキラしたシンセの音がSACDだととてもクリアに聴こえる。5.「星のファンタジー」。曲が始まった瞬間、闇に支配された空間にポンと放り出される。音とは静と動である。即ち、空気が震えている時とそうでない時。静寂を表現することがオーディオの目的だったのだと気付かされる瞬間。彼女の声が信じられないほど透き通ってクリアに聴こえる。最後の"Merry Christmas"は、彼女の暖かい息遣いさえ聴こえる様だ。
暗闇の中、淋しさに逢うたび、彼女の声を求めた。気付けば、もう何十年もそこにいたのだろう。