先日、高田郁の『みをつくし料理帖』がドラマ化された。当然ながら、物語は料理を中心に進んで行く。もちろん、盗賊なんかは出てこない(あっ、火付けは登場したけど)。それは、この原作が、あくまでも料理小説だからだ。池波正太郎の作品には、読んでいるだけで涎が出そうになるほどに、美味そうな料理がたくさん出てくるが、これらは、池波作品にはなくてはならない存在なので、『鬼平犯科帳』『剣客商売』などのドラマでも決して手を抜いた描写は行われない。しかし、彼の描く料理には、高級食材でも美食でもない、ごく普通の料理も多々登場する。例えば『剣客』の第一話で、秋山大治郎が食するのは"根深汁"である。この根深汁とは、単に長ネギの味噌汁なんだが、何故か判らぬが、読んでいるだけで、急にご飯と漬物と味噌汁を食いたくなるのだ(そういう意味で、彼の小説は夜中に読んではいけないw)。 極めつけは、こんな男料理。『仕掛人・藤枝梅安』では、鍋にだし汁、そこに醤油をまわし、短冊に切った大根を入れただけの料理が出てくる。本当に不思議なのだが、これだけで、もう、美味そう、なのである。
北方謙三の描いた『水滸伝』の続編となる『楊令伝』の文庫版が、ついに完結となった。全15巻で、最初の数巻は購読を我慢していた(一気に読みたかった)ので、約1年の付き合いだった。この『水滸伝〜楊令伝』にも男の料理がたっぷりと登場する。魚肉入りの饅頭(まんとう)から、戦や調練の際にしか食することのできない野戦料理、登場人物が調合した秘伝の香辛料や秘伝のたれもなども出てくる。香辛料は料理上手の李逵が山中から調達したもの。たれは元猟師の解珍(北方版では解珍と解宝は親子という設定)が作ったもので、両者の死後、一部の人物にのみ継承されたが、その両方を受け継いだのが陶宗旺で、これらを使った料理にありつけるのは、彼によって、たまたま選ばれた者だけである。鹿を捌き、脳みそと血を練ったものに香辛料をまぜて鍋にし、生肉を秘伝のたれで食らい、最後は焼肉で〆る。これらは花飛麟、呼延凌らが口にした。彼らは、花栄、呼延灼の息子である。この楊令伝において、水滸伝で死んで行った者たちの志(こころざし)は、その息子たちの若い世代へとが引き継がれた。もちろん、それは軍人や軍師、文官だけでなく、医師や薬剤師、馬の調教師・飼育師、船大工、鍛冶、等々全てにおいてである。そして、この料理法や調味料もだ! 志は彼らの血肉となり、脈々と生き続けるのだろう。
さて、残すは最終巻だけである。中央道のSAで手に入れた鹿肉ジャーキーと、アイラのモルトで一杯飲りながら、これを読む。これぞ至高の瞬間、至福のひと時! とはいうものの、最近では暗い場所で細かい字を読むのがめっきり辛い年齢となっちゃったのよねーんw
※ちなみに、陶宗旺の鹿料理の描写があるのは第11巻である。
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