つる屋は本日より再開です。

先月のとある日曜日。何時もの様に新聞の書評面を読んでいると、全面広告に目が止まった。そこには北方謙三史記 第2巻』の文字が。おぉー!と思わず歓喜の雄叫びをあげた次の瞬間、その隣の一文を見て驚愕…「つる屋は本日より再開です」。来た、ついにキター! 高田郁の『みをつくし料理帖』シリーズがようやく再開されたのだ。
みをつくし料理帖』シリーズは高田郁の大人気時代小説で、訳有って江戸へやって来た大阪の女料理人「澪」が、「つる屋」に集う様々な人たちの義理人情に支えられながら、料理の道を極めていくといった内容だ。一筋縄では行かない複雑な人間関係の中で、主人公は数々の難関に直面するのだが、季節感に溢れた情景描写が素晴らしく、暦に沿ってつつましく生活を送る江戸の人々の様子が緻密に描かれているため、読者の気分はいい塩梅に中和され、暗澹たる気分に陥る様な事は無い。この辺りが人気の要因なのかもしれないが、それにしても、歴史小説ファンの間でちょっと話題になったかと思ったら、あれよあれよと言う間に大人気となり、ついにはドラマ化(澪役は北川恵子)までされてしまったのだから大したものだ。
そういえば、その少し前、未読だった彼女のデビュー作『出世花』を読んだのだが、まず驚いたのがこの作品のテーマ。なんと、湯灌に従事する女性の話である。"湯灌"という聴きなれない言葉に首を傾げる人も多いかもしれないが、簡単に言えば新仏の体を清める仕事…平たく言えば死体洗浄である。もちろん、作品におけるそれらの描写は極めて静謐で厳かに表現されている。『みをつくし〜』と同じく基本的には義理人情だが、ちょいとミステリー風な作品もあり、いろいろと楽しめる。そういえば、『みをつくし〜』にも、ちょっとした食材が問題解決の糸口となったりするものも少なくない。主人公のひととなりもどこか似通った部分が多いので、"みをつくしファン"にとっては必読の書であろう。


『出世花』は作品管理上の問題から、出版社を変更し新装版となった。

残月 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)

残月 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)

出世花 (ハルキ文庫 た 19-6 時代小説文庫)

出世花 (ハルキ文庫 た 19-6 時代小説文庫)