高田郁 『銀二貫』

世の中にはよく判らない「賞」ってのが沢山あって、例えば食品なんかが、何かの金賞やら大賞やらを受賞しているだけで、食べてもいないくせに絶対の信頼感を寄せてしまう。有名なモンドセレクションなんてのは、要するに食品を格付けする為の審査機関で、そこへ大金を払ってその品質を審査してもらい賞を頂くといったシステムだ。実際のところ、金賞を受賞するのは結構難しいらしいのだが、実は、その審査基準は秘密のヴェールに包まれているらしい。そういえば、小学生の頃、正月に書いた書初めに数百円を払って審査してもらうシステムがあったが、実際にはどこの誰が審査してるのかさえよく判らない。それでも金賞とか貰うと本当に嬉しかったもんだ。
ところで、今ではすっかり有名になった"本屋大賞"、「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本」というのがその趣旨である。これは、予め予備選考された作品を、選考委員が密室で審査し決定される"直木賞"や"芥川賞"に対するアンチテーゼに他ならない。まあ、本好きが必ずしも文学好きって事じゃないのだから、こういった大賞が多くの人達から支持されるわけだ。
7月頃だったか、新聞の書評面を読んでいると、高田郁の『銀二貫』が紹介されていた、なんでも"Osaka Book One Project"なるものの第1回受賞作品らしいのだが、この"Osaka Book One Project"とはなんぞや? 早速ネットで調べてみると…「大阪の本屋と問屋が選んだほんまに読んでほしい本」との事らしい。ちょw 本屋に問屋まで付けて、更に、ほんまに読んで欲しいとなww いや、馬鹿にするわけじゃないが、その、いかにも大阪的な発想には脱帽するしかなかった。



さて、その受賞作『銀二貫』だが、寒天問屋の話である…、いや、マジでw 寒天問屋の和助は仇討ちの現場に遭遇し、斬り付けられた親子を救うべく、その仇討ちを銀二貫で買い取る。親は間もなく息絶え、遺された子(後の松吉)を問屋の丁稚として引き取る。松吉はその後様々な苦難に直面するのだが、事あるごとに重くのしかかるこの銀二貫に、最終的には救われる事となる。例によって、義理人情と信仰心によって物語りは支えられているが、これは、デビュー作『出世花』と、出世作となった『みをつくし料理帖』シリーズの両作品を繋ぐ作品である。松吉の本業は寒天問屋であるが、寒天の可能性を広げるために料理人まがいの作業を何年にも亘って延々と続けるし、冒頭での親子の生き別れシーンでは、立場は違えど『出世花』でのそれと似通っている。『みをつくし〜』は、江戸へ流れて来た大坂(大阪)の女料理人の話であるが、『銀二貫』は大坂や京都といった関西が舞台であるので、コテコテの大阪商人の話である。ただ、それは、現代の面白おかしく語られることの多い大阪商人像ではなく、生真面目で慎ましく、信心深い大阪商人像である。 …仇討ちを買い取るために使った銀二貫は、焼け落ちた天満宮へ寄進するため大事な金であったのだ。

銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)

銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)