何故かわからないけど、世の中にはタイミングってのがあって、それがいつまで経ってもどうしても噛み合わないって事がよくある。そのなかのひとつが、いつかは買おう買おうと思っているのに、何故か買えずに、未だに持ってないアルバムってのがある。まあ、理由はいくつかあって、例えば、それが名盤とされるものよりも僅かに評価が低いアルバムで、なかなか踏ん切りがつかなかったり、2枚組で金額的にちょっと手が出しにくい、なんて実にケチ臭い理由だったりもする。また、若いころ、友達から借りたLPをカセットにダビングして死ぬほど聴いたんだけど、逆にそれで満足してしまったアルバムってのもある。実はビートルズ関連のアルバムも例外ではない。やっぱりポールの『レッド・ローズ・スピードウェイ』や『ラム』は超名盤で買いたいと思っている、が、持ってはいない、のである。
さて、そんな中、Yesのアルバムで所有していないもののうちの一枚が、この『海洋地形学の物語』("Tales from Topographic Oceans" 1973)だった。買えなかった理由はいくつかあって、まあ、『危機』や『こわれもの』といった超名盤に比べれば評価が低いというのがある。これは、製作途中でリック・ウェイクマンが脱退してしまって、どうしても中途半端な印象を受けてしまうからだ。その原因の発端となったのは、リックの大作主義への反発と言われているが、他のメンバーは彼のアルコール依存症をその理由として挙げている。また、ドラムがビル・ブラッフォードからアラン・ホワイトに代わり、リズムサウンドががらりと変わってしまったというのもある。ただ、初めて観た動くYesが、NHKの"ヤング・ミュージック・ショー"で、そこで演奏されていたのが、このアルバムに収録されている「儀式」だったので、思い入れがないというわけではない。因みに、後に発売されたライブ・アルバム『イエス・ショウズ』にもこの時期の「儀式」が収録されていて、それが文句の付けようがないくらいカッコいいのだ。
さて、ではなぜ今、買うことになったのかといえば、それは、SACDが価格改定で再発されたからである。SACD、7インチ紙ジャケ仕様で2,800円(本作は2枚組3,600円、税抜き)なら、まずまずのお買い得価格だろう。今回はLP時代から一度もオリジナルを所有していないので(ダビングのみ)、これが初めての『海洋地形学…』となるので、従来のCD等との比較はできないことを予めお断りしておく。因みにこのSACDはハイブリッド盤なので、SACDプレイヤーを持っていない人でもCDレイヤー部分のみ再生できるのでご安心を。では早速行ってみよう!
まず、紙ジャケの出来だが、これは7インチ(シングル盤と同じ大きさ)ジャケットで見た目は通常のプラケよりはいい。ただし、材質はペラ紙で、盤を収納・固定するのは7インチの円盤状の厚紙にプラのアダプターを付けただけの貧弱なもの…これは以前買ったジェフ・ベックの『ワイヤード』(ソニー)とほぼ同じだが、非常に扱いづらいので、改善が必要だろう…というか、やっぱり、7インチって中途半端で邪魔なだけかもしれない。本題の音質だが、やはりSACDは上品だなと思う。例えば、アラン・ホワイトのドラム。ティンバレスや片面タムをメインに使った非常にパーカッシヴなサウンドが特徴的だが、これがCDだと硬質的になりがちなんだが(手持ちの『リレイヤー』以降のアルバムでの感想)SACDではドラムの材質感がよく判るほど上品だ。これ、CDだと音の目の詰まった感が少ないんだよね。スカスカってわけじゃないけど、グシャっとした印象があって、まあ、そもそもパーカッション類を上品に録るってのは技術的に難しいんだけど、このパーカッシヴな…特に「儀式」におけるアランのドラムには、ちょっと感動してしまったな。しかし、SACDで最も評価されるべきポイントは、やはり圧倒的なまでの音の分離性能の良さだろう。特にYesのようにかなりの音数を誇る作品群では、それが遺憾なく発揮される。各楽器の音がはっきりと分離して聴こえることは、それがそのまま静の部分にまで影響を与える。音数が多くレベルが大きい、イコール、うるさいという事ではないのだ。そういう意味では、今まで聞いてきた、本作の前作にあたる『危機』も、次作にあたる『リレイヤー』も、恐らく"うるさい"のだ。そうして、それらのSACDを今聴いてみたいと思い始めている自分が、ここにいる。