くらもちふさこ『花に染む』が完結!

最近じゃあコミックなんかの情報を積極的に追いかけなくなってしまったので、ふらりと寄った書店でいきなり新刊に出くわしたりするが多い。この『花に染む』もそうで、いつのまにやら第8巻で、いつのまにやら完結していた。実は、実際に買ったのは今年の1月頃だったのだが、ちょいと多忙で、つい最近ようやく読み終わったという次第。



この作品は、そもそもが『駅から5分』というパラレルなストーリを持つ、ちょっと変わった作品のスピンオフで、突然『駅から〜』の連載が中断となり、それに取って代わったのがこの作品ということになる。まあ、母屋が乗っ取られたようなもんだが、『駅から〜』のとある場面が『花に染む』にひょっこりと顔を出すことがあったりして、そんな場面に出くわすと、おもわずにやりとしてしまうのだ。ところでこの作品、なんでも、今年の手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞したそうだが、審査員の誰かが「読み手を選ぶ」みたいなことを書いていた。この、読み手を選ぶとはどういうことなんだろう? それは、作品が読み手に対して、ある程度の読解力を要求することだと勝手に解釈している。実は、この、漫画を読解する力を養ってくれたのが、くらもち作品自体だったりする。高校生の頃出会った彼女の作品は、それまでのどの漫画よりも読解力を必要とした。例えば、彼女の多くの作品では、女性主人公が思いを寄せる男性は、ことごとくものを語らない。そればかりか、主人公ですら多くを語らない場合もある。結果、読者は、それ以外の情報を元に、主人公たちの感情を分析していくのだが、物語が難解であればあるほど、情報は膨大な量に達する。それらを元に、登場人物の、ちょっとした表情やしぐさをとって、それが何を意味するのかを非常に注意深く類推したりするのだ。それは、小説で言うところの、"行間を読む"という作業に似ているのかもしれないが、とにかく、そういった作業は必須で、普通の漫画のように、すらすらを読み進めることは絶対に出来ないのである。そんな中でも、この『花に染む』の主人公達は極めて無口である。その分、他の登場人物が饒舌かというと、全然そんなことはなく、要するに、読み解くのが非常に困難な作品であるといってもよい。特に、主人公"花乃"の"陽大"に対する思いが、恋愛なのか友情なのか、それともそれすらをも超越する存在なのかが非常に判り辛いので、その分感情の分析が難しい。更には、前述の通り、『駅から5分』との絡みもあったりするので、その度に"母屋"を引っ張り出して確認しなくてはならないのだ(別にしなくてもよいがw)。まあ、考えようによっては、そういった作品を読み解く作業こそが、くらもちファンにとっての至高の喜びなのだろう。最後になったが、この作品に収録されている「駅から5分 -last episode」をもって『駅から5分』も完結となる。壮大な物語、である。