以前『海洋地形学の物語』のSACDの記事を書いたんだが、そのSACDの希少性(要するに限定盤)に危機感を覚え、結局『こわれもの』『危機』『リレイヤー』も購入したんだが、音質的にはイマイチの感があった。まあ、いくらSACDが超高音質だからといっても、リマスタリングが上手くなかったり、そもそも、マスターテープの状態が悪かったり、録音状態が悪かったりすれば、当たり前だが、それ以上の音にはならないのだ。以前にもちょっと書いたと思うが、例えば『危機』の場合なら、冒頭のボコボコというノイズや音像が左右にぶれる現象なんかは2001年リマスターにも存在するが、2003年リマスター(RHINO)には存在しない。マルチマザーに遡って手を入れていないのであれば、マスターテープに違いがあると考えられる。70年代頃は、レコードが全世界一斉に発売されることはなく、オリジナルのマスターをコピーしたものが各国のレコード会社に送られ、独自にカッティングが施されたりしていたので、こういった音の違いはよくあった。高音質を謳うレコードには、原盤を輸入したり、直接マスターテープを借り受けたりして製作されたものもあった。また、カッティングの技量によっても音質は大きく左右されたのが現実で、溝同士が接近しすぎて針飛びを起こしたり、レベルがオーバーしてノイズが発生したり、逆にレベルが極端に小さかったり、そういうのは各国ごとに、あったり無かったりした。したがって、CD化の際に一番重要なのは、そのマスターテープの出処であったり、状態であったりするわけで、「オリジナルマスターをついに発見!」なんてのがリイシューの際の一番のウリになるわけだ。
さて本題。このイエスの『サード・アルバム』は『海洋地形学の物語』と同じく、知ってはいるが持ってないシリーズの1枚である。ただ、このアルバム、知ってはいる、のは曲だけで、オリジナルを聴いたことが無かった。なぜ曲だけなら知っているのかというと、これらの曲は2曲を除いて、全てライブアルバムの『イエスソングス』に収録されていたからで、こっちはアルバム(LP)を所有していたため、耳タコだった。しかし、再現性の高さに定評があった彼らの演奏も、やはりライブとなれば大なり小なり違いはあって、もちろん、アドリブなんかも入れてくるわけだ。だが、ここでの一番重要な点は、メンバーに違いがあるという事だろう。まず、『サード・アルバム』ではドラマーがビル・ブラッフォードだが、『イエスソングス』ではアラン・ホワイトだ(一部ブラッフォードの演奏も収録)。そして、キーボードは前者がトニー・ケイ、後者がリック・ウェイクマンとなる。特にこのキーボードの交代劇は重要で、言うまでもなく、リックの存在無くしてイエスサウンドは語れないくらい、彼はイエスにとって特別大きな存在だった。定説では、トニーはハモンドの音に固執しており、また、右手でしか弾けなかった(左はコードだけという意味か?)ため、クビにしたらしい。イエスの大看板であるキーボードサウンドはやはりリックと共にもたらされたものだった。実際にこのアルバムのキーボードはお世辞にも上手いとは言えないし、シンセの音はもちろん入っていないので、例えば「スターシップ・トゥルーパー」なんか、あの特有の煌びやかな派手さが全くない。キーボードはハモンドと生ピアノでが主体で、ほぼ全てでバッキングに回っているのだ。実は、このアルバムで初めてスティーブ・ハウが加入し、一般的にはこのアルバムからイエスはプログレバンドになったと言われている(以前はサイケとかアートロック)。だからこのアルバムのオリジナル・タイトルが『The Yes Album』というのも十分うなずける。
見開きジャケットなんだが、何故かセンターに超特大のトニー・ケイがレイアウト。意味がよく判らんなあw
イエスのファンでもこのアルバムを所有している人は少なそうだが、言うまでもなく名曲揃いである。ただし、ド派手なキーボードやアレンジを期待すると肩透かしを食らう。ここではあくまでもバッキング主体のおとなしいそれがあるだけだ。まあ、苦行とまではいわないが、それもまた、趣があってよろしい、と思えるのはファンだけなのかもしれない。