全面寺山修司

先週、夕刊をパラパラとめくっていると、見慣れた或る男の写真に出くわした。不敵な笑みを浮かべ、その眼光は何十年経っても見た者の心を射抜く。寺山修司である。なんでも、2013年5月4日は寺山没後30周年なのだそうだ。寺山関連の創作物は、一通り目にはしたはずだ。かつて入手困難であった映像作品も、今やネットで容易に見つけることが可能だし、殆どの書籍は絶版とならず、今でも入手可能なものが多いし、新たな関連書籍の出版すら見受けられる。
もしも今、この男が生きていたら、一体どんな事をやらかしていたんだろうと考える事が度々ある。PCのある自室の1m四方1時間国家が、そのまま全世界と繋がっている現代に於いて、我々に対してどの様なアフォリズムを提示していたのだろうか? 寺山のツイッターなんてものが配信されていたら、それだけで毎日が違った世界になっているはずだ。な〜んて…実現不可能な妄想はこのくらいにしておこうか。 (https://twitter.com/terayamasyuzi)(https://twitter.com/terayama_30th


2013.04.09付け 朝日新聞夕刊の全面広告。

さて、寺山が主宰した今は無き劇団、演劇実験室◎天井桟敷。それを引き継ぐ形で立ち上がった、演劇実験室◎万有引力。主宰者はJ・A・シーザー、その人である。この全面広告にも載っていたが、彼の過去に行った音楽活動の記録が、近年続々とリリースされている。かつて、レコード店には"日本のロック"って小さなコーナーがあった。日本のロックはそんなコーナーだけで十分だったのだ、つまり、殆ど商売として成り立つ世界ではなかったのだ。そんなコーナーでも、多分、"クリエーション"とか"サディスティック・ミカ・バンド"なんかはまだ売れていた方だが、もう、何年も、ずーっと売れ残っているレコードってのも沢山あった。今でも記憶にあるのだが、そのうちの1枚が『J・A・シーザー リサイタル/国境巡礼歌』だ。記憶に残っていたのは、そのジャケットのイラストが及川正通だったからに過ぎない。寺山に心酔するようになってから手に入れようとした時には、既に廃盤となっており、非常に悔しい思いをしたが、後年、BELL ANTIQUEから再発、更にシーザーの楽曲が、アニメ『少女革命ウテナ』で使用され、一大ブームが巻き起こると、アニメのサントラ以外にも、天井桟敷万有引力の舞台音源や、未発表音源を編纂したBOXセット等が、これでもか!というくらい発売される様になった。中古レコード店で、壁に飾られたウン万円もするレコード・ジャケットを眺めていたのが、まるで嘘の様だ。しかし、そうやって、今でも寺山の血が若者に受け継がれているのだから、この世の中、やっぱり面白いじゃないか! 寺山もこの展開にはきっと驚いているはずだ、草葉の陰で、いや、恐山の岩陰で!


『国境巡礼歌』(1973)。演奏者の名義は"J・A・シーザーと悪魔の家+天井桟敷"だ。先月、完全盤が発売になったばかり。


1978年、演劇実験室◎天井桟敷の舞台『身毒丸』からのライブ音源。「慈悲心鳥」演奏は3:32頃から。


こちらはアニメ『少女革命ウテナ』に於ける"決闘シーン"で使われた楽曲を多く含むアルバム『体内時計都市オルロイ』。合唱とメタルの融合だ。


国境巡礼歌 完全盤

国境巡礼歌 完全盤