大滝詠一 『EACH TIME 30th Anniversary Edition』 を聴く。

Konozamaのおかげで、到着が一週間遅れとなり、更にバンドのライブやら何やらで忙しくなってしまったのだが、先日、なんとか、じっくりと聞く時間が出来たので、ようやくこの記事を書ける事となった。



さて、この 『EACH TIME 30th Anniversary Edition』、ジャケットの方は前作の『ナイアガラ・トライアングル Vol.2』の30周年記念盤と同じく、初回盤のみ三方背のカバー付きで三つ折りジャケットで2枚組みである。それにしても、ライナーの1ページ目を開いた瞬間、身が凍ったように動けなくなってしまった。そこには大滝のポートレートがあり、その写真には"大滝詠一(1948-2013)"というキャプションが付いていたのだ。それは、初めて、大滝がもうこの世にいない事を実感させられた瞬間であったのだ。多くの人がそうだと思うが、ついに生の大滝を見る事が出来なかった身としては、何かをやり残した感が非常に強いのだ。それは、初めて訃報を耳にした時、よく判らなかった、もやもやとしたものの正体だったのかもしれない。そして、今回、本人によるライナー・ノーツは、当然ながら、無い、のだ。その代わりに封入された「Eachi Times 号外」には、非常に親しい音楽仲間、評論家らによる、思い出話の様なものが書かれているのだが、そこからは、彼等が、まだ大滝の死を実感していない状況が見て取れる。彼らが、それを受け入れるには確実に時間が足りなかったのだ。



さて本題の音の方だが、これは予想通り、30周年記念盤の『ロングバケーション』と同じく、あくまでもアナログ盤の再現を目指したものと思われ、無闇にレベルを上げるようなリミックスではない。従って、ひたすら引っ張り上げた20周年記念盤とは、全くの別物であると言ってもいい。昨今の過剰なレベル上げに慣れてしまった耳には、ややこじんまりとした音に聞こえるかもしれないが、今回の音は、ひたすら耳に優しい、そんな音だ。大滝の声が空間を満たし、体に染み渡る。そこに刺々しさの様なものは全く無く、ただただ、曲に身をゆだねることが出来る、そんな音だ。

今回のリイシュー盤だが、三方背のジャケットには、ステッカー風の印刷が施され、そこには"Final Complete EACHI TIME"とある。実は、このアルバム『EACHI TIME』には、オリジナルLP盤の他に、いくつかの種類が存在している。詳しくは『レコード・コレクターズ』2014年4月号を参考にしてもらいたいが、要約すると、バージョンや、曲数や、曲順に、全て違いがある。前回との大きな違いは、3曲追加されていたボーナストラックが削られて、代わりに、全11曲のオリジナル・カラオケ(メロディーなしの純カラ)が追加され、2枚組となったところである。このカラオケでは「夏のペーパーバック」と「木の葉のスケッチ」が本編とは別バージョン、更に「レイクサイド・ストーリー」では、オリジナルLP盤発売以来、30年振りとなる、大エンディング・バージョン(しかも、オリジナルとは異なるバージョン)である! 正直、この大エンディング・バージョンは事前情報が無かったので、耳にした瞬間、鳥肌が立った、というか、全身を寒気が襲って吐き気すら覚えた。いや、冗談抜きでw あまりの嬉しさに、生理的な部分が対処しきれなかった様だ。これは、多分、大滝の隠し玉だったと思うのだ。そんな事を考えてから、暫くして、ああ、この先、もう本人の手による、リイシュー盤は二度と発売されないのだと思うと、なんとも言えぬ、暗澹たる気分に襲われたのだった。彼の作品はこれにて打ち止め。もう、それでいいや。だって、作品に仕込まれたギミックの種明かしや、録音の裏話なんかが、もう、本人から語られる事がないのだから。

ずいぶんと長い間夢を見させて頂いた。いや、今でも、彼の作品を耳にすれば、いつだって夢見がちな、あの頃の少年に戻れる。これから先、何回も。