VA 『クレプスキュール物語 2014』 ("COINCIDENCE V. FATE 2014")

先日、待ちに待ったCDが郵送されてきた。 『クレプスキュール物語 2014』。タイトルからも判るように、かつて発売されていた『クレプスキュール物語』の2014年版である。ただし、オリジナルのリイシューではなく、あくまでも2014年版なので、収録曲は、かつての名曲から現在所属するアーティストの楽曲までと、幅広いラインアップとなっている。このアルバムは"オーマガトキ30周年記念企画"と銘打たれているが、この"オーマガトキ"とは、レコード店大手の新星堂の子会社としてスタートしたレコード会社で、クレプスキュール等のマイナーなレーベルを紹介したり、或いは、芸術的な映像作品(例えば、ジャン・コクトーの実験色の濃い映画作品等)を積極的に販売していたりした。この"オーマガトキ"とは日本語の"逢魔時(大禍時)=おうまがとき"を意味する。即ち、夕暮れ時は魔物が闊歩する危険な時間帯であるから、気を付けなければならない、といった戒めに近い意味を持つ。夕暮れ時の災難(事故や人攫い)から自身や子供達を守るためのものだ。1984年当時、音楽に対して"オシャレ"という言葉を使っていたかどうかは定かではないが、記憶ではもう少し後だったような気がする。この当時はもっと暗い表現で、例えば、"鬱"だとか、"病気"だとか、今風の言葉で表現するなら"ダウナー系"なんてのが当て嵌まりそうだが、要するに全然オシャレじゃなくて、そういった表現に近かったのだ。だから、この"クレプスキュール"=夕暮れ時、なんて響きはダークなイメージがあって、当時のオムニバス盤『ブリュッセルより愛を込めて』なんてのを聴くと、ちょっとばかり鬱々とした雰囲気に支配されたものだ。だから、クレプスキュールとオーマガトキという響きは、非常に共通する意味合いを持ち合わせていたのだと思う。



さて、この『2014』版だが、前述の通り、当時のアーティストから現在に至るまで、全22アーティスト、全27曲が収録された2枚組みで、続けて聴くとお腹一杯になるほどだ。アンテナ、アンナ・ドミノ、ポール・ヘイグ、ドゥルッティ・コラム、リチャード・ジョブソン、ペイル・ファウンテンズ、ボーダー・ボーイズ等の名だたるアーティストの作品の中で、最も楽しみにしていたのが、ミカド(MIKADO)の「パラザール」("Par Hasard"MIKADO)だ。当時新星堂から直接輸入販売されていた12インチ盤に収録されていた曲で、記憶では今回が初のCD化だと思うが、とにかく、この1曲だけでも聴く価値がある。アンテナの「シーサイド・ウィークエンド」は『ブリュッセルより〜』に収録されているバージョンではないのが残念だ。ルイ・フィリップ率いるボーダー・ボーイズは「ソーリー」が収録された。ペネロペ・クィーンという初めて耳にするアーティストは、何と、イザベル・アンテナの娘なのだそうだが、このアルバムに収録されていても全く違和感がない。というか、逆に、他の曲達が、全く持って色褪せていない事に驚きを禁じえない。
"逢魔時"に事故が多いのは、闇が迫せまり、視界が悪くなるうえ、人々が家路を急ぐあまり注意力が散漫になる事が原因だともいわれている。自分のお気に入りの音楽をわき目も振らずに聴いていたら、突然、そう、まるで交通事故に遭った時の様に、こんなレーベルと出合ってしまった。クレプスキュールとは自分にとって、そんな存在なのである。

クレプスキュール物語2014

クレプスキュール物語2014