ジョージ・ハリスン 『アップル・イヤーズ 1968-75』 (George Harrison"Apple Years 1968-75")

既に輸入盤で入手済みの方も多いかと思うが、ジョージのアップル・レコード時代に発売されたソロ・アルバム作品(アルバム6作品=CD7枚、映像集=DVD1枚)のBOX-SETがいよいよ発売となる。国内盤ではCDディスクがSHM-CDでの発売となり、輸入盤よりは多少の音質向上が見込める他、分厚いブックレットには当然対訳が付く。また、DVDの映像には字幕も付く様だ。因みに、CDのパッケージは紙ジャケでもプラケでもなく、デジパックみたいな仕様らしい。



アップル時代のジョージは、映画のサウンドトラック作品で幕を開ける。1stアルバム『不思議の壁』("Wonderwall Music"1968)は、後追い世代の自分達にとっては、映画についての情報が殆どない状態であったので、このアルバムに手を出すのにはかなりの勇気が要った。ジョージマニアの自分にとってもそれは大きな賭けで、見事にその賭けに負ける事となる。続く2ndアルバムは、アップル・レーベルからではなく、"ザップル・レーベル"(Zapple)よりのリリースとなった『電子音楽の世界』("Erectric Sound"1969)である。この"ザップル"とは、実験的な音楽、或いは非音楽的な作品をリリースする為に用意されたレーベルで、ジョンの初期ソロ作品もこのザップルからリリースされた。個人的には、こちらのアルバムは"当り"w いや、冗談抜きで。というのも、当時の自分は、現代音楽にハマっており、こういった音楽に対しての許容範囲が際限なく広かったのだ。入り口はジョンの「レボルーション9」とか「アイ・アム・ザ・ウォルラス」あたりのコンクレートだと思うが、そこから、ジョン・ケージスティーブ・ライヒ、と幅を広げて行った。まあ、そんなわけで、このアルバムはカセットテープに録音して、それを聴きながら眠りに付くという毎日を送っていたという、実に変態的な中学2年生だったのだ。この2枚は実はCD未入手なので、それだけでもこのBOX-SETを買う意味はある。
さて、大作『オール・シングス・マスト・パス』("All things Must Pass"1970)だが、このアルバムについては、当ブログに於いても何回か取り上げているので今回はオミットさせていただくが、自分の音楽人生に於いて多大なる影響を与えた1枚である事には間違いない。因みにタイトルは「諸行無常」に近い意味で実にジョージらしい。
続く2枚、『リヴィング・イン・ザ・マテリアルワールド』("Living In The Material World"1973)、『ダーク・ホース』("Dark Horse")は何か坂道を転がるの如く、様々な事態が悪化の一途を辿る。確かに良曲もあるが、それがアルバムの輪郭を形作るまでには至らない。何か、もう一味足りないのは、やはりフィル・スペクターの様な強力なプロデューサーを欠いたからなのかもしれない。後者では、声の調子も悪く、何かカラ元気の様な印象ばかりが目立つ。
さて、アップル・イヤー最後のアルバムは、ご存知『ジョージ・ハリスン帝国』("Extra Texture"1975)だ。もうね、喉もすっかり潰れてしまって、何かが吹っ切れた様な気さえする。「二人はアイ・ラヴ・ユー」なんて、サビ以外の部分は"You"を繰り返すのみw 「ギターは泣いている」なんて、かつての名曲の焼き直しみたいなものさえある。ただ、もう別人の様になってしまったジョージの声は、何か物寂しげで、アルバムの印象を少しばかりもの憂いものにしてしまっている。ついにレーベルがリンゴの芯だけになってしまったこのアルバム。"アップル"というものに対して、彼はもう何の思い入れも無かったのだろう。
秋の夜長にはぴったりのBOX-SETだ。

アップル・イヤーズ 1968-75(DVD付)

アップル・イヤーズ 1968-75(DVD付)