ついにFINALを迎える『鬼平犯科帳』

時代劇は子供のころからわりと慣れ親しんできた存在であった。今どきの考えでは、時代劇というと古臭い響きでしかないが、実は時代と共に多様な変化を見せており、いわゆる"勧善懲悪"といったありきたりなものばかりではなかった。ただ、演出も度が過ぎるとお笑いでしかなくなるし、陳腐化の度合いも早くなるのは言うまでもない。そういった中で、常に斬新であるが普遍的で、時代に媚びることのない演出で高い人気を維持してきたのが、現『鬼平犯科帳』(主演:中村吉右衛門)で、1989年以来27年の長きに亘って放送されて来た。個人的には、このシリーズが池波正太郎文学への入口となった作品なので、その思いはひとしお、なのである。ただ、最終回を迎えることに関しては、いたしかたないという思いでしかない。なにしろ、ほとんど原作を使い果たし、おまけに吉右衛門をはじめとする多くの出演者、および製作スタッフが高齢化しており、恐らく製作を維持してくことがかなり難しくなってしまった事は容易に想像がつくからだ。以前このブログでも書いたと思うが、例えば、平蔵の片腕でもあった与力の佐嶋忠介は、高橋悦史が演じていたが、鬼籍に入って以来代役は立てていない。また密偵の相模の彦十役の三代目江戸屋猫八が鬼籍に入った時は、代役を長門裕之が務めたが、直後に亡くなってしまい、以降彦十は登場していない。痛恨だったのはやはり小房の粂八役の蟹江敬三の死だ。癖のある役者であればこそだが、やはりどうあっても代役を立てるのは無理だった。まあ、あまり書きたくはないが、吉右衛門の殺陣にしても、かつての荒々しく切れのある演技はもうない。多岐川裕美や梶芽衣子といった女性陣の衰えも、TVが高画質化した現在ではキツイものがある。もちろん、そこは見る側がかなり脳内補完しているわけだが、それもこれも、そろそろ限界ではある。残念ではあるが、演じる側も作る側も、そして見る側も、もう吉右衛門鬼平犯科帳を解放してあげる時期なのだろう。


オール読物増刊『永遠の鬼平犯科帳』。今回のFINALの撮影現場のレポや、ドラマシリーズの詳細なデータも記載されている。鬼平ファン必読!

池波正太郎の『鬼平犯科帳』の面白さは、鬼の平蔵として恐れられた長谷川平蔵が、火付盗賊改方という特殊な部隊(現代でいうところの鎮圧部隊のようなもの。現場での自由度が比較的高く、裁量もアバウトである)で見せる人間としての両面性である。普段はあくまでも情に厚い人間が、凶賊の前では鬼と化す。凶賊の腕や足を一本ずつ斬り落とし放置して去る、なんてのは、鬼平でしか成立しないカタルシスである。まあ、そういうカタルシスの持って行き方を判りやすくステレオタイプ化したのが『必殺仕事人』シリーズだったワケだが、『必殺仕掛人』が池波の『仕掛人・藤枝梅安』が元になっていたなんて、当時小学生だった自分は知る由もなかった。