ジョージ・ハリスンのBOX SET『Dark Horse Years 1976-92』を聴く(その2)

『Dark Horse Years 1976-92』を聴く、続き。

前回も書いたが、このBOXに収納されたオリジナルアルバムはほぼ夢中になって聴いた記憶がない。しかし、このアルバムだけは、かなり聴いた、と思っていたのだが…。

 

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そのアルバム、『想いは果てなく〜母なるイングランド』"Somewhere In England"(1981)から。ご存知の通り、ワーナーレコードの社長から注文が付き、曲の差し替えやジャケットの変更を強いられたが、その後ジョンが凶弾に斃れた事により、ジョージがリンゴ用に書いた曲を書き換えてジョンの追悼とし、アルバム先行カットという名目で「過ぎ去りし日々」"All Those Years Ago" がシングルカットされた。シングルは久々の大ヒットとなり、それが呼び水となってこのアルバムは売れに売れた…と言いたいところだが、それほど振るわなかった。久々に聴いてみると、やはり「過ぎ去りし…」は秀逸で、元々がリンゴ用だったこともあってか、それほど感傷的な印象ではなく、むしろ、かつての自分たちを懐かしむ、といった程度の感覚。それが多分よかったのだと思う。ただし、マニアからしてみれば、その程度の感覚ですら、かなり辛かった、のである。しかし、この曲が突出している分、他の曲はかなり霞む。個人的にいい線行ってるのと思うのは「世界を救え」"Save the World"かな。それにしても、社長がアーティストの方向性に口を出して、結果、大したセールスに繋がらなかったんだから、逆に自由にやらせた方が良かったんじゃないか? とはだれもが思うところだろう。かき集めれば、差し替え前のオリジナルの音源を揃えることも可能だし、当然ながらブート盤でも入手可能だ。また、現在のジャケットは、オリジナルのもの(ジョージの後頭部とイングランドが合体している写真)に戻されているが、ジャケはこっちの方が、誰が見ても秀逸だと思うんだが、一体なぜあのジャケットになったのか不思議で仕方ない。こっちの方がジョージも男前だしね(笑)

 

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さて、いよいよ『ゴーン・トロッポ』"Gone Troppo"(1982)である。実は、今回のBOX購入で一番の収穫だったのがこのアルバム。世間一般には、ジョージのアルバムとしては最も評価の低い、そして、一番売れなかったアルバムとして認識されている。トロピカル感満載で、おおよそジョージらしくない…当時は、大体こんな感じの評価。だが、しかし!である。このアルバム、実は最高にカッコイイのだ! まず1曲目の「愛に気づいて」"Wake Up My Love"。これ、イントロからしてシンセのリフとシンセベース(打ち込み?)がフューチャーされていて、ちょいとエレポップ寄りなんだけど、これが世間一般では、ジョージらしくない、らしい。だがこれ、かなりの疾走感があって、超絶カッコイイのだ!  よく言われる、時代に迎合したとか、日和ったとか、そんな感じは一切受けないんだよね。大体、ジョージらしくないって何なんだよ。ロック界になかり早い段階でシンセを取り入れたのはジョージだぜ? イントロがシンセで何が悪いって話だろ。それにしても、この「愛に気付いて」って邦題がなんともしっくり来ないな。「I Really Love You」はカバー曲。ドゥーワップ調でリードボーカルの存在が希薄だ。それは次の「Greece」も同じで、こちらはVoパートがほとんどない。後半で申し訳程度には出てくるんだが、それもコーラスパートの断片の様な気もする。そしてA面最後にあたる、表題曲「Gone Troppo」だが、確かにトロピカルといわれればそうだが、それはティンバレスマンドリンなどが前面に押し出されているのと、歌詞が開放的というくらいのもので、言われなければ、そこまで南国ってわけでもない。考えてみればこのアルバム、打ち込み、ドゥーワップ、インスト、南国とバラエティに富んでおり、そして、なんといってもジョージ節が健在なのである。「Unknown Delight」なんてその最たるもので、Gソロでサムシングの一節が使われているあたり、グッと来るものがある。このジョージ節が当時の評論からすっぽりと抜け落ちてしまっていたのがどうにも納得できない。アルバムの評価が最悪だったので、逆補正が掛かっているのかもしれないが、要するに、いくらFAB4といえども、本人の売る気がなけりゃ、やはり売れない時代だったのだろう。だが、このアルバムは、自分にとって、既に「お気に入り」の仲間入り、なのである。

この項続く。