お正月に何を聴く? 2011

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
というわけで、今年も去年と同じく、タイトル通りのネタで行こうかと思いますが、去年は本当に行き当たりばったりでアルバムを選んでいたのですが、今年は一発目のアルバムだけは決めてありました。そのアルバムは、ジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス(All Things Must Pass)』。実は、去年の2010年はこのアルバムの発売40周年にあたる年で、記念としてハイレゾ・デジタル音源のDL販売開始と、LPの重量盤(180g)が限定発売となり、同時に特設サイトも開設されました。思えば2001年盤が出た時も特設サイトが開設され、未発表バージョンのフラッシュ動画等が公開されましたが、今回は、なんと"Wha-wha"のハイレゾ音源が無料でDL出来るという大盤振る舞い!興味のある方はこちらのサイトでぜひメール登録を。さて、この『ATMP』ですが、レコーディングの中心メンバーとなったのは、ご存知の通りデレク・アンド・ザ・ドミノス(Derek and the Dominos)の面々。このいきさつは、エリック・クラプトンがデラニー&ボニーのツアーに参加したことに端を発します。ジョージは、ビートルズのゴタゴタから解放されるべく、クラプトンに誘われるままこのツアーに変名で同行。アメリカ南部の泥臭いブルースに触発されたクラプトンは、主要メンバーを引き抜いてドミノスを結成するわけですが、この時のメンバーがそのまま『ATMP』のレコーディングセッションへ参加する事になります。また、この時、ジョージはデラニーよりスチール・ギターの奏法を学びますが、その魅力にとり付かれた彼は、このアルバムで、カントリー・ミュージックのペダル・スチール・ギター奏者、ピート・ドレイク(Pete Drake)へ、レコーディングへの参加を要請します(この辺りを参照)。このピート・ドレイクという人について、以前YouTubeで検索したのですが、いきなりトーキング・モジュレーターを使って演奏を始めたのには驚きました。



ところで、彼の演奏を大々的にフューチャーした"I Live for You"という曲があるのですが、実はこの曲、2001年のリイシュー盤に収録されるまで、30年の長きに亘りお蔵入りとなっていました。もちろん、マニアの間ではブート盤等でお馴染みの1曲で、何故収録されなかったのかが非常に謎とされていました。後のジョージの説明によれば、ドレイク以外の演奏の出来に問題があったとの事ですが、ブート盤収録のバージョンがそれ程酷いとも思えず(オフィシャルと殆ど変わりは無い)、未だにこの説明には納得が行きません。でも、とにかくジョージが亡くなる前に、こうして日の目を見た事は本当に良かった(ただし、ドレイクは1988年に死去)。因みに、ドレイクは、この後、同時期に録音されていたリンゴの2ndアルバム『カントリー・アルバム(Beaucoups of Blues)』にも参加します。



しかし、この『ATMP』というアルバムは音楽的には非常に特殊で、要するにビートルズで培われたジョージのセンスと、デラニー&ボニー経由により齎されたスワンプ・ロックの泥臭さ、そして共同プロデューサーであるフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンド、この3つが渾然一体となったもので、更に付け加えるなら、当時親交の深かったボブ・ディランのセンス(01.I'd Have You Anytime"での共作、及び、06."If Not for You"でのカバー )も併せ持つ、非常に不思議な雰囲気のアルバムとなっています。

さて、ちびちびとモルトを嘗めながら聴いているので、LP3枚分ではかなりいい気持ちになってきます。まあ、当然といえば当然ですが、この後はデレク・アンド・ザ・ドミノスの『レイラ(Layla and Other Assorted Love Songs)』へと突入するわけです。実はこのアルバム、夏になると猛烈に聴きたくなる1枚で、その時期は、CDプレイヤーの中に入れっぱなしになる事もしばしば。というわけで、久々に冬に聴くレイラです。
ドミノスのメンバーは『ATMP』のレコーディングから、雪崩れ込むようにしてレイラのレコーディングへと突入するわけですが、ジャケットの中写真を見ても判るとおり、メンバーの親密度は最高潮で、まあ、考えてみれば、こういう状態の後はやはり…w というわけで、2枚目のアルバムをレコーディング中に、クラプトンとジム・ゴードンが激しい口論となり、あっさりと解散してしまうんですね。ところで、この表題曲ともなっている"レイラ"ですが、ジム・ゴードンの作曲とされている後半部分(ピアノから始まるパート)は、実はリタ・クーリッジが作ったというのが最近の定説になっています。これは、以前レココレでも記事として取り上げられていたのですが、当時、リタとゴードンは交際しており、このパート部分の元となった曲をスタジオで聴いたか何かで(記憶が曖昧ですみません)、どうやらそれをそのまま"レイラ"へと流用したらしいのです。因みに原曲は、リタの姉プリシラが当時の夫ブッカー・Tと製作したアルバム『BOOKER T.&PRISCILLA JONES』に収録されている"Time"。



しかし、この『レイラ』に参加したミュージシャン、この後ろくな事になってないんですね。ゲストのデュアン・オールマンはバイク事故であっさりとこの世を去り、クラプトンも薬物とアルコール依存症で生死を彷徨う様な所まで行くわけです。ジム・ゴードンに至っては、薬物依存から遂にあっちの世界の住人となり、終いには母親を殺してしまいます。『ATMP』まで含めれば、フィル・スペクターも同じような事になってるわけで、まあ、いくら良い作品を世に出しても、決して幸せになるわけじゃあないんですね。
おっと、LP5枚分も曲を聴いたおかげで、酒もかなり回り始めたようです。そんなこんなで、昼間っからまた夢の中を彷徨うのでしょう。気持ちのよい音楽を聴きながら…。