ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の50周年記念盤が発売に

ついにその全貌があきらかとなったビートルズサージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の50周年記念盤。例によって、様々な組み合わせで製品化されるのだが、ビートルマニアは迷うことなく、スーパー・デラックス・エディション(4CD+DVD+BD)の一択となるだろう。以下は公式にアナウンスされたその内容である。



●【スーパー・デラックス(完全生産限定盤):UICY-78342 】(4SHM-CD+BD+DVD:6枚組のボックス・セット)

※DISC1(SHM-CD):1枚目のCDは、新たにステレオでミキシングされたアルバム。1CD(UICY-15602)と同内容。

※DISC2&3(SHM-CD):スタジオ・セッションでレコーディングされた33曲。ほとんどが未発表で、初めて4トラックのセッション・テープからミキシングしたもの。レコーディングの日付通りの曲順で収録。「ペニー・レイン」の新たなステレオ・ミックス、そして2015年にステレオ・ミックスした「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」も収録。

※DISC4(SHM-CD):アルバム・オリジナルのモノラル・ミックス、及び「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」と「ペニー・レイン」のシングル音源からダイレクト・トランスファーしたもの。キャピトル・レコードがアメリカでのプロモーション用に制作したモノラル・シングル・ミックスの「ペニー・レイン」、「シーズ・リーヴィング・ホーム」、「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」、そして「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」の未発表の初期のモノラル・ミックス。(このミックスは、1967年にテープから消去されたと思われていたが、アニヴァーサリー・エディション用にアーカイヴを探した際に発見された)

※DISC5&6(BD&DVD):ジャイルズ・マーティンとサム・オケルの手によるアルバム、及び「ペニー・レイン」の新たな5.1サラウンドのオーディオ・ミックスと、同じく彼らが2015年に手がけた「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」の5.1サラウンド・ミックス。アルバムと「ペニー・レイン」の新たなステレオ・ミックスのハイレゾ音源と、2015年にステレオ・ミックスされた「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」のハイレゾ音源。映像:「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」、「ペニー・レイン」そして「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のオリジナル・プロモーション・フィルムの4K復元版。及び、未発売のドキュメンタリー映画(1992年放映)の復元版。ドキュメンタリーではマッカートニー、ハリスン、そしてスターへの突っ込んだインタヴューがフィーチャーされている。また、ジョージ・マーティンがスタジオ内での様子を紹介。

※日本盤のみ英文解説の翻訳、歌詞対訳付

★日本盤のみスーパー・デラックス特典:『サージェント・ペパーズ』立版古:50周年記念エディション封入(一般販売されているものとはデザインが異なります)※立版古(読み:たてばんこ) :江戸時代に錦絵のなかの「おもちゃ絵」のひとつとして広く楽しまれたもの。「立てる版古(錦絵)」という名の通り、錦絵を切って組立てて楽しむものだが、組み上げた時の想像以上の立体感、パノラマ感の驚き、楽しさはまさに立版古ならでは。盛んに親しまれていた江戸時代からのものも、現存するものは非常に少なく、まさに幻の存在となってしまっています。




このうち、内容的に食指が動かされるのはDisc-2と3かな。全て未発表音源だが、「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」のようにブート盤で散々出回ったものもある。Disc-4はミックス違いの集大成的内容で、かなりマニア向け。Disc5と6はハイレゾ音源と映像だが、映像4K版なんぞは『1』の再発時に出ても良かったんじゃないかなとも思うが。一番気になるのは"音"そのものなんだが、とりあえずジャイルズ・マーティンの作業内容に興味はない。単に嫌いだからw だいたいDisc-1もそうだが、今更新たなミックス出されても、だから何?としか言いようがない。それでも買ってしまうのがビートルマニアのサガという奴だw



ECMの超名盤『THE KOLN CONCERT』『return to forever』『BRIGHT SIZE LIFE』が初のSACD化!

高校生の頃に行われたジェフ・ベックの来日コンサート。その時帯同していたのは、ヤン・ハマーではなくスタンリー・クラークだった。当時はベーシストにスポットライトが当てられていた時代で、ルイス・ジョンソンジャコ・パストリアスと並んで人気があった。そのスタンリー・クラークが先か、チック・コリアが先か忘れてしまったが、"リターン・トゥ・フォーエヴァー"に辿り着いた。どうしてもその音を聴いてみたいという衝動に抗えず、なけなしの金を持ってバンドのギターと一緒にレコード屋へ行ったのだが、どのアルバムを買えばいいのかがさっぱり判らない。ただ、今では考えられないが、当時のレコード屋には試聴という荒業が存在していた。当時はアルバムがシールドされていなかったので、売り物のレコード盤を取り出して、頭の部分を少しだけ試聴できたのだ。試聴したのは2枚。予め調べておいたECMの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』(チックコリア名義)と、たまたま置いてあった『ノー・ミステリー』だ。最初に聴いたのは前者だったのだが、もう人を不安に陥れる要素しか見当たらない「Return to Forever」のイントロを聴いた瞬間、これじゃない…かな。一方後者は、(恐らく)当時の最新盤で、エレクトリックサウンドがメインで、音的に派手だった。2人で協議した結果、断然後者に軍配が上がる。まあ、まだ高校生だし、当然そうなるわなw しかし、今にして思うのだ。もし、現在のようにYouTubeなんかで全曲を聴いていたらどうだったのだろうと。そして、前者を買っていたら、何となく今とは違った音楽生活を送っていた様な気がしてならないのだ。そのアルバムは、数年後に出た『ザ・コンプリート・コンサート』(1977)を聴いてから遡って買ったと記憶している。

今回のSACD化はタワーレコードの企画で実現したもの。当然ながら限定プレスとなっており販売もタワレコのみ。今を逃すと、今後入手が困難となる可能性が大だ。しかし、このリイシューはその方面ではかなりの衝撃だったらしい。なにしろ、ECM創立者のマンフレート・アイヒャーは音源を厳しく管理しており、CD化の際のリマスターも本人が行い、以降リマスターは行われていないとのこと。まあ、SACDがマニアのものだからこそ、音質的な意味でECMの方針と合致したのかもしれないが、音楽ファイルでのやりとりが一般化している今、いまだパッケージ販売が主流の日本でだからこそ実現したのだろう。
今回の3枚はそのどれもが名盤である。しかし、当時、一部のジャズファンからは、ジャズという範疇から逸脱した音楽と捉えられていたのも事実だ。したがって、今では考えられないような批判も多かったと聞く。しかし、これらの音楽は、後にクロスオーバーやフュージョンと呼ばれるようになり、やがて大ブームを巻き起こした。この3枚はその歴史の始まりでもあるのだ。キース・ジャレットの『THE KOLN CONCERT』は全編即興によるピアノ演奏のライブ。当時のジャズ界を震撼させた。そのキースと、マイルス・デイビスのもとで席を同じくしたチック・コリアの『return to forever』は、後のバンド、"リターン・トゥ・フォーエヴァー"への礎となった作品だ。ジャズでは一般的でなかったローズを前面に押し出し、スタンリー・クラークの先進的なベースもアルバムの要となった。かなりポップな歌モノから、B面全部を使った大作までと、最後まで飽きることのないアルバムだ。パット・メセニー『BRIGHT SIZE LIFE』。初のソロアルバムで、発表当時はまだ21歳という若さだった。ジャコ・パストリアスの斬新なベースも作品の根幹を形作っている。メローサウンドにも通じる大量のリバーブが印象的だが、後年の作品よりはまだジャズ色が濃い。

前述の通り、この3枚は売り切れ必至の超貴重アイテムだ。後悔する前に買え!

グレーン・ウイスキー初体験。サントリー『知多』を飲む。

普段よく飲むウイスキーの種類は?と問われれば、恐らく多くの人がブレンデッド・ウイスキーか、バーボンと答えるだろう。更にウイスキー好きなら、これにシングル・モルトなんかが加わるはずだ。もちろん、ウイスキーはこれだけじゃなく、数多くの種類が存在する。有名であるのにあまり飲んだことのないウイスキーの筆頭に挙げられるのが、何といっても"グレーン・ウイスキー"だろう。国産でも単体で販売されているものは非常に少ないし、取り扱っている店もそう多くはない。今回採り上げるサントリーの『知多』は、グレーンの中では一番新しいブランドで、発売当初から試してみたかったウイスキーである。とはいうものの、発売されたのは2015年の秋だから、かれこれ1年半が経ってしまった。



ところで、この"グレーン・ウイスキー"とは一体なんなのか? まずはそこから説明せねばなるまい。このグレーンという文字は、ウイスキー好きなら必ず目にしていて、それはブレンデッド・ウイスキーの裏のラベルを見れば、必ず記載されているものだ。ブレンデッド・ウイスキーの本体となるのが"モルト"であるが、実はこれ単体で飲むには非常にくせが強い。それを飲みやすくするために使うのが"グレーン"で、平たく言えば、割り材の様なものなのである。割り材、と書くと、なんとなくウィスキーとしてはモルトより格が落ちるような印象を受けるし、事実、自分もそう感じていた。要するに、モルトのように、非常に洗練された技法を元に作られるものと違って、割り材に使われる単なる"安酒"というイメージがあったのだ。それは、原料が雑穀であることや、連続式蒸溜器を使う事や、熟成期間が短期間である事等に由来するものだ。しかし、考えてみれば、このグレーン単体で飲んだことは一度もなかったのだ! というわけで、この未知なるウイスキー『知多』をさっそく飲ってみよう! (※注)今回のこの『知多』は、裏のラベルを見ると、グレーンとモルトが併記されているが、これは原料に僅かながらモルトを使っているためで、厳密にはシングル・グレーンではないらしい。

まず特徴的なのはその色だ。非常に淡い飴色で、それがウイスキーと知らされなければ、まるで穀物酢のような色だ。とりあえず、テイスティンググラスに少量を注いで鼻を突っ込んでみる。瞬間、強烈なフルーティーテイストが鼻孔を刺激する。梨やりんごの類のそれだ。とにかく甘い香りで、アルコール臭を感じさせないほど。舌に滑らすと、非常に甘く滑らかな口当たりに驚く。とげとげしさが一切なく、ピリピリ感も全く感じない。のどごし辺りでようやくピリつく程度だ。舌にほのかな苦みが残るが、後、すっきりとした粉砂糖の様な甘みが残り、その香りが鼻孔の奥で持続する。正直、ストレートでもなんら違和感なく飲むことが可能であるが、シングルモルトと違って、何か掴みどころがない様に感じてしまうのも事実だ。
次にティースプーン一杯を加水してみる。モルトのように香りが開くような事はなく、多少、苦みと酸味が増す。舌のピリ付き感が強まり、ピール系の苦みを感じる。ここから徐々に加水していくと、極端に飲みやすくなる。香りは薄らぐが、甘みは変わらず、また、いわゆる腰砕けの様な感覚はない、というか、そもそも腰が存在しないのかもしれない。トワイスアップでは、甘さがメインとなる。これは、普通のウイスキーからはちょっと考えられないほどで、苦みや酸味も極端に薄れる。バーボンの様な焦がし樽を使っていないせいで、雑味や刺激臭も全くなく、極めてクリアな印象だ。これはまるで、非常に薄い水割りの様な感覚で、とてもトワイスアップという感じがしない。甘さは増す一方で、薄いはちみつやメイプルシロップの様で、後、薄いガムシロップの様な甘みが残る。今回、水割りは試さなかったが、恐らくその性質上、非常に軽い飲み口になるだろう。もちろん、ロックやハイボール、その他のカクテルでも楽しく飲めそうだが、せっかくだから、この稀有なるグレーンウイスキーと、とことん向かい合ってみたい。口当たりが良く甘いので、女性には断然お勧めだが、つい飲みすぎてしまう恐れがあるかも。それにしても、この『知多』、ずらりと並ぶウイスキー棚に常駐する可能性を秘めているかもしれない。今日はモルトじゃ重いかな〜?と思ったその日には『知多』を手に取ろう。

松田聖子のSACD/CDハイブリッド盤を聴く〜『Touch Me, Seiko 』編

松本隆出世作といえば、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」だろう。歌詞の内容は今更説明するまでもないが、面白いのは、この歌詞を東京生まれの、しかも山の手育ちのお坊ちゃまが書いたというところだ。はっぴいえんどと良く比較されるサディスティック・ミカ・バンド加藤和彦高橋幸宏も山の手育ちだが、彼らが実にスマートな音楽展開を見せていたのに対し、はっぴいえんどバッファロー・スプリング・フィールドを標榜した、いかにも泥臭い音楽をやっていた。「木綿〜」的なアプローチが可能だった理由はこの辺りにあるのかもしれない。この物語の起点はもちろん"卒業"ということになり、内容的にはその後の物語である。そして、彼氏が都会へ旅立つという物語を、卒業という地点で凝縮したのが松田聖子の「制服」だろう。更に、同じ別れにしても、「制服」に於いてただ受け身でいただけの女性から、もう少し進化した状況が斉藤由貴の「卒業」ということになる。ここで描かれるのは、泣くのは本当に悲しい瞬間だけと言い放つ、芯の強い女性像だ。ただ、彼が都会へ行って離れ離れになってしまうという状況は共通しているが、松田聖子の「制服」はちょいと片思い風な物語だ。当時、これほどの名曲がB面であることが信じ難く、この辺りが、そこいらのアイドルとは別格であることを強く印象付けた。





『Touch Me, Seiko 』はご存知の通り、シングルのB面曲のみで構成されたベスト盤だ。B面なのにベスト盤ってのは、当時の松田聖子にしか出来ない企画だったに違いない。それは、人気という面だけでなく、楽曲のクオリティが相当高くなければならず、この両方を兼ね備えたアイドルは彼女しか存在しなかったのである。このアルバムはベスト盤であるが、以前このブログで紹介した『アーリー大瀧詠一』と同じく、シングルのマスターをかき集めてリマスターされたものである。少し説明させてもらうと、一般的なベスト盤(オムニバス盤)は、各曲のマスターを集めたのち、摺り合わせ(各曲間で異なった音質や音量を均す作業)が行われ、それをひとまとめにしたものが新たなマスターとなる。レコードをカッティングする際に、A面用、B面用と、ひとつのテープにする必要があるからだ。ただ、このマスターからリイシューを行えば、結果的にシングルマスターの第2世代を使う事となるわけで、音の新鮮味が失われてしまう(まあ、摺り合わせの作業が行われていれば、オリジナルとは異なった音と解釈する事もできるが…)。今回のSACDは、シングルのマスターをかき集めて(このプロジェクトで既にSACD化された曲を除く)それをそのままリマスターしてDSD化ている。このため世代的には第1世代からのリマスターとなる。ただし、音質的には有利だが、アルバム全体としての音的な統一感は失われる、が、逆に、そのシングルの方向性や、エンジニアの意図などを計り知ることができるというわけだ。



さて、その第1世代のB面集を早速聴いてみよう。まずは、このアルバムが発売された当時の直近のシングルのB面、01.「SWEET MEMORIES」だ。当時、このシングルをA面で買った人も多いと思うが、実際は「ガラスの林檎」のB面である。サントリービールとのタイアップも相まって話題となり、両A面に昇格して爆発的にヒットした。まず思ったのは、圧倒的に鮮度が高い! 逆に言えば、もう少し暖色系の強いまん丸な音を想像していたのに、かなりソリッドで硬質な印象を受けた。ただ、尖った感じはしないのは各楽器のバランスがいいからだろう。英語詞のバックで流れるピアノは饒舌すぎず、極めて上品である。02.「TRUE LOVE 〜そっとくちづけて」は「青いサンゴ礁」のB面だ。Aメロ部分でのレガート気味な歌唱は松田聖子らしくなく、逆に新鮮でときめいてしまうほど。対してBメロでは聖子節全開でその対比が面白い。ここでのギターのミュート気味のカッティングがさりげないが小気味よい。05.「わがままな片想い」は「天国のキッス」のB面。曲は細野晴臣だが、細野、というより、当時のYMOサウンドそのものである。というのも、この曲は当時歌手としてYENレーベルからデビューした小池玉緒が歌う予定の「カナリヤ」という曲だったのだ。これは後に『YEN BOX Vol.2』に収録されたが、もちろん、オケもキーも違う(こちらのバージョンは小池本人が作詞らしい)。それにしても、YMOサウンドで歌う松田聖子はかなり無敵。そして、YMOのこの時期のサウンドが、実は非常にアナログ的だと再認識した。実は、YMOってデジタル臭があんまりしないんだな。



07.「ボン・ボヤージュ」は呉田軽穂こと松任谷由実の作品だが、この曲も思っていたよりもソリッドな感じで、特にボーカルが硬質だ。しかし、いい意味で音場がこじんまりとしていて、曲調によく合っている。女の子が心細くて胸を痛めてるのに、野郎と来たらヘラヘラしやがってw 当時もなんとなく物悲しくて仕方のない曲だった記憶がある。09.「制服」は当時から非常に人気の高かった名曲だ。冒頭のピチカートが、意外と大げさに鳴ったのには驚いた。Cメロへと続く聖子のひとりハモリの分離性はSACDならではで鳥肌ものだ。それにしても、鮮度の高い第1世代のマスターをSACDで聴けるとは、長生きはするもんだ。若かったあの頃、この名曲に出会えたことに心から感謝したい。

オムニバス盤『LET IT BE Black America Sings Lennon, McCartney and Harrison』を聴く

アメリカの黒人歌手によるビートルズのカバー集の第2弾が発売された。第1弾の出来がすごぶる良かったのだが、今回は"Harrison"が追加された事も相まって、いやが上にも期待感が高まる。ケース裏の曲目一覧を見ると、古くは1963年から最新は2009年とかなり長い期間からチョイスされている。ただ、最初に断っておくが、個人的に黒人歌手についてすごぶる詳しい知識があるわけではないので、主にビートルズマニアからの視点によるレビューとなる事を了解いただきたい。



さて本題。まず、このアルバムに収録された曲は大きくふたつのタイプに別れる。まず、ビートルズの解釈そのもの、即ち、本質的な部分においてかなりオリジナル近いもの。そして、オリジナルとは大きくかけ離れた独自の解釈によるもの、という分類である。例えば、01.「Eleanor Rigby」はAretha Franklinによる歌唱だが、オリジナルがストリングスによるバッキングなのに対し、こちらはピアノを中心に据えたリズム重視で、歌われるのは貧困層の黒人達といったイメージだ。02.「Dear Prudence」は THE 5 STAIRSTEPS なるアーティストの曲だが、これはほぼオリジナル通りの演奏と歌唱となっている。03.「Got To Get You Into My Life」は Earth,Wind & Fireによるものだが、これは映画「Sgtペパーズ」のサントラに収録され大ヒットを記録した。この曲はリアルタイムで体験したが、当時ラジオなんかではガンガンにかかりまくっていた記憶がある。今回より追加された"Harrison"が、彼の手による作品というだけでなく、レノン=マッカートニーによる曲だが彼の歌唱による、04.「Do You Want To Know A Secret」みたいな曲が含まれていたのはちょっとしたサプライズ。これはMary Wellsの歌唱だが、まったりとしてエロ可愛い。Fats Dominoの06.「Lovely Rita」はこのアルバムでの一番のお気に入りで、コミカルで飄々とした歌いっぷりは、思わず一緒に歌い出したくなるほど。



09.「A World Without Love」はそもそもピーター&ゴ−ドンがオリジナルだが、それをThe Supremesがカバーしたもの。ピーター・アッシャーは、当時のポールの恋人ジェーン・アッシャーの兄で、デビュー曲をポールが書いた。版権の関係上、作詞作曲はレノン=マッカートニーで登録されているが、ビートルズの曲ではない。このスプリームス版はオリジナルに近いアレンジだ。Junior Parkerの10.「Tomorrow Never Knows」は、サイケデリック・ミュージックの最高峰であるオリジナルとは正反対の超ダウナー系。オリジナルが思いっきりハイなのに対し、こちらは鎮静剤打ちました…みたいなw こういう解釈があるからこそ、この手のアルバムは面白い! 12.「With A Little Help From My Friends」はThe Undisputed Truthという聞きなれないアーティスト。このカバーはオリジナルよりも、むしろジョー・コッカーのバージョンに近いし、歌い方も彼をかなり意識しているものと思える。Ike & Tina Turnerによる 14.「She Came In Through The Bathroom Window」は、この選曲自体がかなり珍しいが、もう完全に彼らだけの世界で、アレンジもホーンセクション全開でバリバリのファンク。性欲むき出しでかなりエロい歌いっぷりだ(SheをHeに変えている)。19.「In My Life」はBoyz II Menによるもので、収録曲中で一番最近の録音(2009年)だ。曲の解釈はオリジナル通り。こんな曲を彼らに歌わせたら、向かうところ敵無しなんだな…思わず涙。



さて、"Harrison"作品で目を引くのがこのElla Fitzgeraldによる20.「Savoy Truffle」だろう。ただ、このアレンジはオリジナルにかなり近い。ジョージは本当はこんな感じで仕上げたかったのかなぁ。ただ、歌唱的な限界で、あんな風にボーカルやホーンをイコライジングして滅茶苦茶にしたのかもしれない…なんて妄想してしまう。オリジナルが秘めていた本来の力を彼女が解き放った、という感じだ。さて、本作中、一番の問題作?と言ってもいいかもしれないIsaac Hayesの21.「Something」。オリジナルは多くのカバー曲が存在することで有名だが、本作は11分45秒にも及ぶ超大作で、アレンジも緻密で奥が深い。曲の後半、もう終わるだろうと思いきや、なぜかヘイ・ジュード的な展開にw いったん宇宙まで持って行かれるが、やがて大気圏に再突入してフィドルが大爆発! ちょっとした「何か」でここまで世界観を広げてしまうとは、アイザック恐るべし。いや〜ホント、これだけ好き勝手にやりました的なカバーも珍しい。いいもん聴かせてもらいました。



というわけで、今回の第2弾も大いに楽しめました。というか、ビートルズファンであれば、持っていて損はない名盤だと思います。曲も22曲と多いのでお買い得! もう、こうなると第3弾もやってもらって、その時はついでに、"Starkey"も追加でお願いします。

松田聖子のSACD/CDハイブリッド盤を聴く〜『Snow Garden』編

クリスマスまでのカウントダウンも残り少なくなってきた今日この頃。今を逃すと意味がなくなる?というわけで、オーディオ誌"Stereo Sound"のSACD企画による松田聖子の『Snow Garden』。今回で第3チクルスとなるこの企画だが、例によってCDとSACDのハイブリッド盤で、基本的にはオリジナルマスターからのリマスターよりDSD化されたもの。CDはこのDSDファイルをPCM化したものである。
本作のマスターテープは一部を除きハーフインチのアナログ・テープに収められていたが、同時発売の『金色のリボン』と同じく、SACDによる既発曲はそこで使われたDSDマスターを使用している(ただし、9.「Let's Boyhunt」はスキーのSEが挿入されているので別マスターだと思われる)。



実はこの『Snow Garden』、発売された1987年当時はまったく興味がなかったため、その存在すら知らなかったほど。しかし、今から数年前、ふとこのアルバムを調べたら、そこに収録された「雪のファンタジー」が「星のファンタジー」の歌詞違いと知り、俄然聴きたくなって中古盤を探し回って(もちろんネットだけど)手に入れた。従って、『金色のリボン』の様に死ぬほど聴き込んではいない。このアルバムが発売されたのは、丁度アナログ盤からCDへの移行期で、アナログではA面が新録音の「Today's Avenue Side」、B面が既発音源から構成される「Yesterday's Street Side」となっている。1曲目「Please Don't Go」は7分超の大作だ。クリスマスで賑わう街角で、見知らぬ路地へ迷い込む。ふと気付くと目の前に巨大なステーションが現れた。もうすぐ異次元行きの列車が発車するのだ…みたいな(以上空想)w ここまでが導入部となり、次にブリッジとなるジャズ風のイントロが始まるが、本当に1曲目に突入するのは2分53秒辺りからである。音楽的な部分とはかけ離れるが、この冒頭部分での様々なSEはオーディオ的には面白いかもしれない。ただ、個人的には冗長すぎてやり過ぎという気もする。せめてOP部分を1曲とみなして、飛ばせるようにしてくれれば良かったと思う。3.「Pearl-White Eve」はシングル盤と別のバージョン、と言われても買った当時はオリジナルを知らなかったので、よく判らないが…。しかし、2コーラス目でバッキングがコーラスだけになり、やがてストリングスとメインボーカルが絡んでくる辺りは、このアルバムの最大の聴きどころかもしれない。SACDでは混然一体となりながらも、各音の輪郭がはっきりと聴こえるが、それぞれが主張しすぎる事もない。非常に繊細でバランスの取れた音を聴かせる。4.「恋したら」。この曲はちょっと和風テイストで、バックの鈴の音がかろうじてクリスマスを想起させるが、なかなかの名曲っぷりで、このサイドを締めくくるにはぴったりだ。空間系のエフェクトが異次元感を醸し出すが、暗闇に照らし出された彼女のボーカルがくっきりとその行方を指し示す。10.「雪のファンタジー」は松本隆監督の映画『微熱少年』のサントラに収められた曲だ。歌詞の良さははオリジナルの「星のファンタジー」に軍配が上がるが、映画に絡めた意味があるのかもしれない(小説は発表当時熟読したが、映画は未見)。それでも、最後の最後、ウィスパーヴォイスには何回もヤラレル。

松田聖子のSACD/CDハイブリッド盤を聴く〜『金色のリボン』編

雑誌"StereoSound"による松田聖子SACD/CDのハイブリッド盤第3チクルス。その第一弾となる『金色のリボン』と『Snow Garden』が発売になった。このうち『金色のリボン』はアルバム単体による再発は今までされておらず(10万円のCDボックスセットでのみ製品化された)、待望の初CD、SACD化となる。
『金色のリボン』は1982年、アルバム『Candy』の発売後に発表されたクリスマスアルバムで、アナログ盤2枚組のうち、1枚目が12インチ45回転(当然、高音質)、2枚目が33.1/3回転という変則的な仕様で発売された。1枚目は"Blue Christmas"というタイトルで、クリスマスソングが収録。2枚目は"Seiko・ensemble"で、新録やバージョン違いを含むベスト盤的な内容となっている。本SACDではこの2枚をひとつにまとめたもので、SACDとCDのハイブリッド盤である(CDはSACDDSDファイルをPCM化したものなので、本作独自のリマスターという事になる)。また、1枚目は全てが初SACD化となるが、2枚目には既にSACD化された曲が5曲ある。これらの曲は新たな作業は行われず、既発SACD音源をそのまま流用している。これはこのプロジェクトに基本方針で、各曲はあくまでもオリジナル・マスターの音を尊重し、各曲間での摺り合わせのような作業は行われない。従って、全く質感の異なる曲が1枚のアルバムに同居することとなるため、摺り合わせの行われた従来の作品とは、全体的な印象が違ってくる。録音、音質的な事も含めて、エンジニアの意向が如実に伝わってくるのだ。


残念ながらオリジナルに付属していた写真集はなし。デジパック仕様。税込4,860円

さて、本題。このアルバムの、特にアナログ盤1枚目までの部分は耳タコで、細かな部分までしっかりと耳に刻み込まれているので、今回は1〜5のみのレビューとさせていただく。1.のクリスマスメドレー。冒頭のSEがかなりインパクトのある鳴り方をしたのに驚く。この吹雪のSEで一気に真冬の世界へともって行かれる。ただ、色に例えるなら暖色系の照明といった感じで、丸みを帯びた音色だ。シンセはリング・モジュレーター系の音やスチーム・オルガン系の音など、録音としては恐らく非常に扱いづらいものなんだろうけど、とても綺麗に録れているのが判る。2.「恋人がサンタクロース」。確か、松田聖子初となるカバー曲だと記憶しているが、オリジナルよりもずっと疾走感があって、曲のキモとなるギターが信じられないくらい艶やかに鳴り響いている。今まで埋もれがちだったギターのダウンストロークが意外とロックしてるなと気付かされる。3.「Blue Christmas」はしっとりとしたバラードだが、リバーブも綺麗に響いており、バックのコーラス隊との相性も抜群だ。4.「ジングルベルも聞こえない」は冒頭のSEに続くピアノのイントロから、Aメロでシンセベースが軽快に響く印象的な曲。出張り過ぎないSAXのバランスがいい。後半でずーっと鳴っているキラキラしたシンセの音がSACDだととてもクリアに聴こえる。5.「星のファンタジー」。曲が始まった瞬間、闇に支配された空間にポンと放り出される。音とは静と動である。即ち、空気が震えている時とそうでない時。静寂を表現することがオーディオの目的だったのだと気付かされる瞬間。彼女の声が信じられないほど透き通ってクリアに聴こえる。最後の"Merry Christmas"は、彼女の暖かい息遣いさえ聴こえる様だ。
暗闇の中、淋しさに逢うたび、彼女の声を求めた。気付けば、もう何十年もそこにいたのだろう。