グレーン・ウイスキー初体験。サントリー『知多』を飲む。

普段よく飲むウイスキーの種類は?と問われれば、恐らく多くの人がブレンデッド・ウイスキーか、バーボンと答えるだろう。更にウイスキー好きなら、これにシングル・モルトなんかが加わるはずだ。もちろん、ウイスキーはこれだけじゃなく、数多くの種類が存在する。有名であるのにあまり飲んだことのないウイスキーの筆頭に挙げられるのが、何といっても"グレーン・ウイスキー"だろう。国産でも単体で販売されているものは非常に少ないし、取り扱っている店もそう多くはない。今回採り上げるサントリーの『知多』は、グレーンの中では一番新しいブランドで、発売当初から試してみたかったウイスキーである。とはいうものの、発売されたのは2015年の秋だから、かれこれ1年半が経ってしまった。



ところで、この"グレーン・ウイスキー"とは一体なんなのか? まずはそこから説明せねばなるまい。このグレーンという文字は、ウイスキー好きなら必ず目にしていて、それはブレンデッド・ウイスキーの裏のラベルを見れば、必ず記載されているものだ。ブレンデッド・ウイスキーの本体となるのが"モルト"であるが、実はこれ単体で飲むには非常にくせが強い。それを飲みやすくするために使うのが"グレーン"で、平たく言えば、割り材の様なものなのである。割り材、と書くと、なんとなくウィスキーとしてはモルトより格が落ちるような印象を受けるし、事実、自分もそう感じていた。要するに、モルトのように、非常に洗練された技法を元に作られるものと違って、割り材に使われる単なる"安酒"というイメージがあったのだ。それは、原料が雑穀であることや、連続式蒸溜器を使う事や、熟成期間が短期間である事等に由来するものだ。しかし、考えてみれば、このグレーン単体で飲んだことは一度もなかったのだ! というわけで、この未知なるウイスキー『知多』をさっそく飲ってみよう! (※注)今回のこの『知多』は、裏のラベルを見ると、グレーンとモルトが併記されているが、これは原料に僅かながらモルトを使っているためで、厳密にはシングル・グレーンではないらしい。

まず特徴的なのはその色だ。非常に淡い飴色で、それがウイスキーと知らされなければ、まるで穀物酢のような色だ。とりあえず、テイスティンググラスに少量を注いで鼻を突っ込んでみる。瞬間、強烈なフルーティーテイストが鼻孔を刺激する。梨やりんごの類のそれだ。とにかく甘い香りで、アルコール臭を感じさせないほど。舌に滑らすと、非常に甘く滑らかな口当たりに驚く。とげとげしさが一切なく、ピリピリ感も全く感じない。のどごし辺りでようやくピリつく程度だ。舌にほのかな苦みが残るが、後、すっきりとした粉砂糖の様な甘みが残り、その香りが鼻孔の奥で持続する。正直、ストレートでもなんら違和感なく飲むことが可能であるが、シングルモルトと違って、何か掴みどころがない様に感じてしまうのも事実だ。
次にティースプーン一杯を加水してみる。モルトのように香りが開くような事はなく、多少、苦みと酸味が増す。舌のピリ付き感が強まり、ピール系の苦みを感じる。ここから徐々に加水していくと、極端に飲みやすくなる。香りは薄らぐが、甘みは変わらず、また、いわゆる腰砕けの様な感覚はない、というか、そもそも腰が存在しないのかもしれない。トワイスアップでは、甘さがメインとなる。これは、普通のウイスキーからはちょっと考えられないほどで、苦みや酸味も極端に薄れる。バーボンの様な焦がし樽を使っていないせいで、雑味や刺激臭も全くなく、極めてクリアな印象だ。これはまるで、非常に薄い水割りの様な感覚で、とてもトワイスアップという感じがしない。甘さは増す一方で、薄いはちみつやメイプルシロップの様で、後、薄いガムシロップの様な甘みが残る。今回、水割りは試さなかったが、恐らくその性質上、非常に軽い飲み口になるだろう。もちろん、ロックやハイボール、その他のカクテルでも楽しく飲めそうだが、せっかくだから、この稀有なるグレーンウイスキーと、とことん向かい合ってみたい。口当たりが良く甘いので、女性には断然お勧めだが、つい飲みすぎてしまう恐れがあるかも。それにしても、この『知多』、ずらりと並ぶウイスキー棚に常駐する可能性を秘めているかもしれない。今日はモルトじゃ重いかな〜?と思ったその日には『知多』を手に取ろう。