クリス・トーマス

プロデューサーに興味を持ったのは、ある時自分の大好きなアルバムの何枚かが同じ人物によるプロデュースだと気付いた時で、それは自分にとっての新たな音楽の聴き方、チョイスの仕方を発見した瞬間でもあった。
ロキシー・ミュージック「Country Life 」「Siren」、セックス・ピストルズ「Never Mind The Bollocks」、サディスティック・ミカ・バンド「黒船」何れもクリス・トーマスによるプロデュース作品である。彼はビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンの弟子である。当然だが、当時21歳だった若者が、ビートルズのレコーディング中片時も離れずに立ち会っていたのだから、それはただそこに居ただけでも彼らの知恵とアイデアをどんどん吸収蓄積して行ったはずで、それが後の彼の作品に色濃く影響を与えている事は言わずもがなである。一説によれば、彼は片耳が難聴で(ブライアン・ウィルソンも同じ)、ゆえに彼の作り出すサウンドはあまりステレオ感がなく、中音域に重点を置いたものになっているのだと言う。録音方法はオケ別録りで、レベルの限界ギリギリで録音、でリミッターかけて、いいとこだけぶった切って切り貼りw だからテイクは腐るほど録ってから完全なオケを作り上げる。ミカバンドの「黒船」もこうして作られたので、録音した時とかなり違う曲になっているものもあるという。ただ、こういった作業がいわゆるオーバー・プロデュースに感じられないところがやはり凄いところだと思うのだ。ピストルズなども切り貼りで作られているようだが、ただ当たり前だが、実は彼らは演奏が上手い。もちろん、音楽的知識も演奏技術もまるで無かったシドを除けばの話だが。このアルバムではシド加入前のベーシスト、グレン・マトロックが弾いているものが殆どで、シドが弾いているのは2曲だけだという。グレンは音楽的な部分での中心人物で、多くの曲を彼が手がけているらしい。今更ながらだが、曲自体もただ荒くれたロックンロールという感じではなく、意外にもポップな仕上がりのものが多い。様々なSEやシンセなどは嫌味なく配置されているのもまたいい。このアルバムこそが、70年代までの肥大化したロックを完膚なきまでに叩き潰したのである。それにもかかわらず、中身はこれほどまでにまともなのだ。プロデュースとはそういうことなんだろう。


ピストルズのライブ。ベースはシドだがバンド全体としての演奏はかなり良い。シドはピストルズ解散後に前任のベーシスト、グレン・マトロックと競演している。