ウイスキーに合うアルバム No.01 - エリック・クラプトン 『安息の地を求めて』(1975)

第1回目はエリック・クラプトンの『安息の地を求めて』 Eric Clapton"There's one in every crowd(1975)"だ。このアルバムに出会ったのは中二の頃だったと記憶している。クラスの音楽好きの間には、暗黙の掟みたいなものがあって、それは、誰かが持っているアルバムは買ってはいけないというものだった。当時は、それぞれが違うアルバムを所有することによって、全体のライブラリーを充実させ、共有(カセットテープにダビング)しようという概念とそのネットワークが存在していたのだ(まるで、今のネット・コミュニケーションの様じゃないか!)。
当時、1枚もクラプトンのアルバムを所有していなかった私は、散々迷った挙句、このアルバムの購入に踏み切った。一般的評価がすごぶる悪いアルバムではあったが、この前作に当たる『461 オーシャン・ブールヴァード』"461 Ocean Boulevard(1974)"と次作『ノー・リーズン・トゥ・クライ』"No Reason to Cry(1976)"は既に所有者がいたのだ(後者は最近よく登場するBassE氏だったと記憶している)。
さて、実際に購入した時点では、そんな悪評もあまり気にはならなかった。だって、仮にもクラプトンのアルバムだぜ? それなりの期待感を持って聴いた第1曲目。曲が流れると同時に、自分にも嫌な汗が流れたのを記憶している。生ギターのイントロで始まるなんとも陽気な曲。ライナー・ノーツを読むとトラッド(黒人霊歌)と書いてある。一節歌い終わると、合いの手の様にスライドがぶわ〜んと入る。それが変に共鳴した金属の様な音(後に、ドブロ・ギターだと知る)で拍子抜けする。やる気の無さ気なクラプトンのボーカルと、逆に前面に出張ってくるハイトーンの黒人女性コーラスも好きになれない(思えば、当時、こういった女性ボーカルを聴いたのは、せいぜいピンク・フロイドの『狂気』に収録された「虚空のスキャット」"The Great Gig In The Sky"くらいのものだった)。勢いのある、かちっとしたハードロック系を好んで聴いていた自分にとっては、どれもが気に入らない。2曲目に至ってはリズムがぶんちゃかぶんちゃか。何コレ? 曲が進むにつれ、恐らく自分の顔色は土気色に変っていたに違いないw ブルース・ナンバーはそれなりに期待していたが、これまたユルユルでダレダレ(初めて体験したレイドバックであるw)。しかも、肝心のクラプトンのギターが、ソロ部分以外あまり目立たない。むしろ、主体となっているのは、ハモンドホンキートンク・ピアノだ。
正直、失敗だと思った。ただ、当時は、アルバムを買うこと自体が、年に数回有るか無いかの大イベント。失敗であっても、それは聴き続けるしかないのだ。そうして、カセットテープに録音したそれを、毎晩寝る前には欠かさず聴いた。思えば、若者のまっさらで穢れの無いスポンジの様は脳味噌は偉大だ! 何でもかんでもあっという間に吸収して、自分なりに昇華させてしまう。あの気の抜けたぶんちゃか、レゲエというやつ? なんだか、踊りだしたくなるじゃないか! クラプトンの気負いの無いボーカル最高!なるほど、黒人女性ボーカルは、実はボーカルパートのイニシアチブを握っているのだな…クラプトンが安心して歌えるのはその為か。しかし、このドブロ・ギターの音色の渋いこと。いや、渋いといえば、このブルースのハモンドだな。クラプトンのギターが控えめなのも逆にいいじゃないか!
このアルバムが一生の付き合いになるとは、この時は全く思っていなかった。それが確実なものとなったのは、自分が酒を嗜む様になってからだ。酔って聴く毎に、このアルバムを好きになっていく自分がいた。当時、バーボンに心酔していた私の傍らには、クラプトンの愛して止まない、Jim Beamのボトルがあった。

http://www.youtube.com/watch?v=XWNEzDF_o3w
お気に入りのレイドバック・ナンバー、"Better Make It Through Today" (著作権の問題でサイトに貼り付けることが出来ません)


中二当時、これを友人に貸しても当然評判は悪く、また、借りに来る者も少なかった。がっくしw

安息の地を求めて

安息の地を求めて