ウイスキーに合うアルバム No.03 - ヴェルヴェット・アンダーグラウンド 『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド III』(1969)

ロックはドラッグやアルコールを抜きにして語る事は出来ないが、だからといって、当時(今も)、そういった文化が肯定されていたのかと言えばそうではない。イギリスでもアメリカでも、保守的な地域の方が遥かに多く、例えば、ビートルズがドラッグの発言をしただけでもバンドは糾弾され、離れていったファンも多かったのだ。だが、そういったロックの如何わしいイメージを一手に引き受けてしまうバンドやアーティストが少なからず存在した。このヴェルヴェット・アンダーグラウンドもそのうちのひとつであった。だからというわけじゃあないが、彼らのアルバムはどれもがウイスキーに合うものばかりだ。ただ、1st『ヴェルベット・アンダーグラウンド&ニコ』"THE VELVET UNDERGROUND & NICO(1967)"や2nd『ホワイトライト/ホワイトヒート』"WHITE LIGHT/WHITE HEAT(1967)"におけるノイジーかつヒステリックな音の洪水は、それを受け止めるだけの体力と精神状態が必要で、少しばかり感傷的かつ、静謐な気分に浸りたいのであれば、断然この『III』"THE VELVET UNDERGROUND(1969)"という事になるだろう。因みに、1stに「Sunday Morning」という曲があるのだが、最初に聴いた時は、その詩の意味も判らなかったので(当時は歌詞カードなどは付いていなかった)、日曜の朝を恋人と一緒に迎える…とかw そんな歌詞だと勝手に思い込んでいたのだが、後に、それがとんでもない間違いで、実は誰もが経験する、日曜の朝目覚めた時に襲いかかる、得体の知れない漠然とした恐怖を表現した歌詞だという事が判り、それ以来、土曜の夜に、この曲を聴きながら酒を飲むのが怖くなってしまったw
この『III』は、前衛的サウンドの要であったジョン・ケイルが脱退(ルー・リードによる粛清)し、ポップ感覚に長けたダグ・ユールが加入した為、サウンド的にはかなり控えめで、ノイジーな部分は殆ど影を潜めている。実は、これにはもうひとつ理由があって、レコーディング前のツアーの移動中に、ノイズサウンドを作り出すための特製ファズ(ソニック・ブーム・ボックス)が、楽器と供に盗難に遭ってしまったのである。ただ、メンバーはこの盗難に落胆はしなかった。そもそも、前作までのサウンドを踏襲しようとは思っていなかったからだ。だが、古くから彼らを支えてきたファンの一部は、180度転換したそのサウンドを裏切りとみなした。バンドからは以前の様な活気がなくなり、以降、崩壊の一途を辿ることになる。スタジオ録音としてはオリジナル最後となる、次作『ローデッド』"LOADED(1970)"でのレコーディング中、その完成を待つ事無くバンドは空中分解し、実質的に消滅する。こうなる事は、ルーがジョンの首を切った時から判っていたのだ。


『III』。ルーの繊細かつメランコリックな曲がアルバムの雰囲気を支配する。個人的には「キャンディ・セッズ」"Candy Says"と「ペイル・ブルー・アイズ」"Pale Blue Eyes"がお気に入りで、最もウイスキーに合う作品。前者に登場する"Candy"は女の子ではなく、オカマだ(バストに注入したシリコンが元で死亡した)。この曲のボーカルはダグ・ユール。ルーはツアーで声を潰しかけて、歌うことが出来なかったのだ。


「Candy Says」


1993年の再結成時に演奏された「Pale Blue Eyes」

Velvet Underground

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