オリジナル盤でよこしやがれ! その2

アナログ盤時代、アルバム(LP)を1枚聴く事は儀式であった。基本的には針を落としたら最後、片面が終わるまではその場を動く事は許されない。それは、アルバムがA面B面と、そのインターバルも含めてひとつの作品として構成されていたからで、出来れば、A面B面を続けて聴く事が望ましかった。CD化されて、強烈な違和感を覚えたアルバムはいくつもあった。その中のひとつがビートルズの『アビイ・ロード』(The Beatles "ABBY ROAD" 1969)。A面最後の「アイ・ウォント・ユー」("I Wont You")の、あの強烈なノイズの嵐が突如としてブツンと切れて終わり、数秒のトレースノイズの後に訪れる静寂に身を委ねるその時間までが、ひとつの作品と考えてもよいくらいだ。そうして、ふと我に返り、盤面をひっくり返す。数秒後に流れるのは、まるで陽の光が心の中に射し込んで来るようなジョージの「ヒア・カムズ・ザ・サン」("Here Comes the Sun")である…と、このままだと全曲解説したくなるので、この辺りで止めておくが(しかもこの話、前にも一度書いた様な気もするw) 要するに、このインターバルが非常に重要となるわけだが、CDにはそれが無いし、心の準備段階となるトレースノイズすら発生しない。長らくLPの儀式に慣れ親しんだ身にとっては、これは由々しき問題であった。かと言って、それを解決する方法なんて存在しない。A面が終わった瞬間に再生を止める、な〜んて、悪足掻きもバカらしい。そうだなあ、やっぱりLP盤を聴くしかないのかね…。
この様に、LP時代は、アルバムが全編、或いは、各面で完結しているものが多かったので、実はCDのリイシュー盤に、おまけで収録されるボーナス・トラックなるものが、非常に邪魔となる場合が多いのも事実だ。前回紹介したイエスの『危機』リイシュー盤(Yes "Close To The Edge" 2003 Reissue)にしたって、あれは3曲でアルバムが完結するべきなのだ。LPは、片面約20分に作品を収めるという制約の中で構成されているからこそ成立した小宇宙であると言っても過言ではない。RHINOは非常に丁寧な仕事をする事で有名で、どんな細かな所にも決して手を抜く事は無いのだが、このボーナス・トラックは、正直、要らない、のである。こんな事をするくらいなら、あと数曲ボーナスを足して、2枚組にしてくれた方が余程よかった。同じくRHINOが編纂したヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『ローデッド』のスペシャル・ヴァージョン(The Velvet Underground "FULLY LOADED EDITION" 1997)はディスクを2枚に分け、1枚目はオリジナル・ヴァージョン(オリジナルアルバムで、ルー・リードの意向に反してカットされてしまった部分がそのまま収録されたテイクを含む)とボーナス・トラック、2枚目はオリジナルのアーリー・ヴァージョンや、オルタナテイク等を1枚目に対しシンメトリーに配置した構成で、こちらにもボーナス・トラックが収録されているが、この様に、はっきりと特別編集盤と割り切って発売してくれれば、全く持って文句の付けようは無いのだ。また、ザ・フーの名盤『ライブ・アット・リーズ』(The Who "Live at Leeds" 1970)では、LP時代には1枚で発表されたため、たったの6曲しか収録されなかったのだが、25周年盤("LIVE AT LEEDS - 25TH ANNIVERSARY EDITION" 1995)で8曲追加の14曲、更にデラックス・エディション("LIVE AT LEEDS - DELUX Edition" 2001)では2枚組となり、全33曲のほぼ完全版となるライブ盤に生まれ変わったのだが、これは、ひとつのライブをほぼ丸ごと納めたのだから、こちらもまた文句の付けようがない(なにしろ、「トミー」(Tommy)のライブが丸ごと収録されているのだから!)。


ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『ローデッド<スペシャル・ヴァージョン>』。RHINOならではの編集作業で、一切の手抜き無し!


下に敷いてあるオリジナルLP盤は6曲入り。上方のCD1枚モノは25周年記念盤で8曲が追加。下方のCD2枚組がデラックス・エディションで全33曲入り。


以上の様に、基本的にはボーナストラックの追加には反対である。特に、明確なコンセプトの下に作成されたアルバムにおける、これらの計らいは"無粋"の一言に尽きる。ザ・フーのアルバムがリイシューされた際、他のアルバムにはいくつものボーナストラックが追加収録されたのに対し、『トミー』や『四重人格』には一切収録されなかった。この判断は、もちろん、正しい、のである。
※後に、『ライブ・アット・リーズ』はスーパー・デラックス・エディションが、『四重人格』は、デラックス・エディションとスーパー・デラックス・エディションが発売された。
この項、続く。

Loaded (Fully Loaded Edition)

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Live at Leeds -Deluxe Edition

Live at Leeds -Deluxe Edition