ローレンツ 『ソロモンの指環』

かつて、ソロモン王は、大天使ミカエルより指環を授かったという。真鍮と鉄とで出来たこの指環は、真鍮側で天使を、鉄側で悪魔を呼び出す事が出来、そして、全ての動物の会話を聞く事が出来た。
動物行動学の開祖であるコンラート・ローレンツの名著『ソロモンの指環』は、今、動物(水草からわんこまで、全ての生き物)を飼っている、或いは、これから飼おうとする全ての人間、必読の書である。この作品に出会ったのは、高校の時。生物の教師から強く薦めれれたのがきっかけだったが、この作品に衝撃を受けた私は、以後、独学で動物行動学を学ぶ事になる。しかし、当時(も今も)専門書は非常に高価だったので、氏の論文をまとめた『動物行動学』(1.2共に上下巻があり、合計で4冊)だけで1万円を越す出費であったと記憶しているが、全く後悔はしなかった。
今年、わんこを飼う事となったのだが、その時、一番に引っ張り出して来たのが、この『ソロモンの指環』であった。人生に於いて、最も影響を受けた書物を10冊挙げろと言われれば、絶対に入る1冊である。だから本書は、如何なる時でも、書架のどこかしらに必ず存在していた。そして、幾つもの付箋が挟み込んである。その中には、もちろん、犬の項目もある。
いわゆる"愛玩犬"と呼ばれるものは、多くの人に愛される様に、人懐っこい性格で、かつ愛らしい容姿を持った犬種を掛け合わせて出来たものである。人懐っこいのが長所であるが、逆に言えば、誰にでも愛想を振りまき、ちょいと人の良さそうな人間であれば、ホイホイとついて行ってしまう、犬特有の"忠誠心"が全く欠如した様な犬種である。逆に、いわゆる"狼犬"と呼ばれる大型の犬種は、飼い主に忠誠を誓うものも多いが、狼の血を強く引き継いだものは、一度飼い主と主従関係を結んだ(群れのリーダーとして認めた)場合、飼い主が死亡、或いは、何らかのアクシデントにより離れ離れになった場合、その犬は、誰に懐く事も無く、孤独なままその一生を終えるという(いわゆる"一匹狼"となる)。つい先日のニュースでも、飼い主に捨てられたか、はぐれてしまったある犬が、ガリガリにやせ細った状態で何日も飼い主を待ち続け、保健所で保護されたというニュースを見たが、これなどは、その典型であろう。まさに、"忠臣は二君に仕えず"なのである。
この様に、犬といっても犬種によって、その接し方は大きく異なるが、まあ、相手は話の出来ない、いわば、赤ん坊のようなものだ。彼、彼女は、一体何を言おうとしているのか? いう事をきかないわんこの頭をポカンと殴っておとなしくさせる事は簡単だが、それで信頼関係が結ばれるのかと言えば、そうではない。そんな時、この本を開いてみるのだ。必ずや動物と話が出来るヒントが隠されているのだから。


堅苦しい記述は殆ど無く、小学生高学年程度であれば十分理解できる内容である。現在は文庫本としても出版されている。

ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)

ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)