オリジナル盤でよこしやがれ！ その3

アナログ盤LP時代に作成されたアルバムがCD化される時、一番あってはならない事は、収録曲のカット及び、改変であろう。CDはLP盤に比べて、収録時間が長い事が特徴だが、これが裏目に出る場合もある。例えば、LP2枚組の場合、約20分×4面＝約80分の収録である。しかし、この80分という時間は、CDにとってはギリギリの収録時間である。もしも、LP盤の片面が全て21分の場合なら、全てを収録する事が出来ない。普通なら（特に日本なら）CD2枚組で発売されるのが当たり前だが、アメリカなんかでは、1曲削って、CD1枚で発売してしまったりするのだ！ 犠牲となりやすいのは、そもそもが2枚組のベスト盤だ。ベスト盤なのだから、アルバム自体のオリジナリティは尊重しなくてもよいといった風潮がまかり通っているのだ。逆にLP1枚モノのベスト盤がCD化される場合は、曲が大幅に追加収録される場合が殆どで、こちらはお買い得感が一層増す事となる。
チック・コリア(Chick Corea)率いる、リターン・トゥ・フォーエバー(Return to Forever="RTF")には、解散直前のライブを収録した『ザ・コンプリート・コンサート』("Live (Return Live: The Complete Concert)"1977)というLP4枚組のアルバムがあった。しかしこのアルバム、正真正銘のコンプリート盤がリイシューされるまでには、長い長い年月を必要とした。最初に日本でCD化された際（1993）には3枚組で全曲が完全収録されたのだが、LP時代に面を跨いで収録されていた曲が、そのままの形で、つまり曲がフェードアウト〜インターバル〜フェードインの形で収録された。意図的に曲が分断されていたのならいざ知らず、ライブ録音等の理由で分断された場合は、これはきちんと繋がった状態に戻して収録すべきである、と考える。このアルバムの場合、「終わりなき夜」("The Endless Night")と「ミュージックマジック」"Musicmagic"の2曲だ。実は先にリイシューされたUS盤(1992)では、なんと2枚組仕様で、「終わりなき夜」はきちんと繋がったヴァージョンで収録されているのだが、「ミュージックマジック」を編集して、無理矢理Disc-1に収めているのだ！　これでは食指が動かない。


1993年リイシューの日本盤。3枚組で4,500円だが、当時としてはごく普通の価格。

次に日本でリイシューされたのが1999年。しかし、これがCD2枚組で「終わりなき夜」が分断ヴァージョン、「ミュージックマジック」が編集ヴァージョンでという最悪の組み合わせ。ファンの間からはまたしても失望のタメ息…。それから更に年月は流れて2011年、リマスターで再々リイシュー。今度こその期待が高まったのだが、その仕様は、1992年のUS盤と同じ組み合わせ。そりゃないでしょ…。だが、それから暫くして、US盤の『Complete Columbia Albums Collection』のボックス・セット・シリーズでRTFがラインナップされ、しかも本作品が完全盤の3枚組で発売されるらしいと聞き、俄かに色めき立った。果たして、今回は、正真正銘の完全盤であった！　即ち、LP時代に分断されていた曲は完全に繋がり、編集されていた曲も、元の尺に戻された。しかし、ボックス・セットを買わなきゃ手に入らないなんて、なんかおかしいでしょ！　もっとも、アルバム3セット＝CD5枚が3,000円以下で買えるのだから安いものだ（他の2枚がCD未入手だったのは幸いだった）。それにしても、LP時代の曲をCDに完全収録する、たったこれだけの事に、19年もの歳月を要してしまったその原因は、一体どこにあるのだろう？　消費者が真に求める商品が、20年近くも発売されなかったというこの事実は、巨大化し硬直化してしまったレコード産業の姿そのものを現しているといっても過言ではない。それでいて、やれCDの売り上げが落ちた、うんたらかんたら、ほざいてるんじゃない。さっさとオリジナル盤でよこしやがれ！
この項続く。
※2/3追記。2011年リイシューのBlu-spec CD（限定盤）は3枚組の完全収録盤。


『Return to Forever The Complete Columbia Albums Collection』2011年US盤。コロンビア時代に残した最後の3アルバムを収めたボックス･セット。紙ジャケは日本のそれと違って、こだわりも何も無い。US盤にありがちな、ペラのボール紙をエマルジョン系の糊か両面テープで貼り合わせたものと推測される。経験的に、多分、そのうち剥がれるｗ

Complete Columbia Albums Collection