オリジナル盤でよこしやがれ! その4(パート1)

LP盤に収録されている一曲一曲は、時間そのものが見た目の判断か、ジャケットやライナーに記載された時間を元に推測するしかなく、極めて不確定なものでしかない。多くの曲は、音が出始めた瞬間から曲が始まるのではなく、その手前の無音の時点から始まっているからである。曲の終わりも同じで、終わりとは、音が完全に消えた瞬間ではなく、その後に続く無音も曲の一部と考えられるのだ。もちろん、唐突に曲が始まり、唐突に曲が終わる、って曲も数多く存在するが、それ以外の曲は、前後の無音部分を含めて、一曲、なのである。何を今更、とか、だから何?と言われるかもしれないが、実は、CD化されるということは、一曲の長さが、「ここからここまでです」と宣言されるという事なのだ。即ち、オフィシャル的な、或いは非常にそれに近い見解と見做されるべきものであるのだ。それでも、例えば、クロスフェードなどで曲同士が繋がっている作品の場合、その判断は非常に難しく、こういったオフィシャル的な判断があっても、異論が出る場合も多々有るのだ。まあ、一番判りやすいのは、作った本人やプロデューサーに直接リイシュー作業を行ってもらう事で、それはイコール、この曲はここからここまでです、と宣言してくれているのと同じ意味を持つのだ。だが、レコード会社がやっつけで、勝手にリイシューした様なCDでは、そこに記録された全てのデータは全く持って信用出来ないのである。
80年代後半は、CDの普及に弾みが付いた時期で、各レコード会社は、この勢いに更なる加速を付けるべく、旧作、いわゆる"名盤"と呼ばれる作品のCD化を急いだ。当時は、リマスターという概念が殆ど浸透していなかったので、ビートルズの様にオリジナルのプロデューサーに依頼してリイシュープロジェクトを立ち上げる、なんて事は殆ど行われなかった。その結果、適当なアナログマスターのコピーに何も手を加える事無くCD化、ジャケットなんぞはLP盤のそれから起こしただけ、なんて酷い作りのリイシュー盤が横行し、CDの音質自体にも懐疑的かつ批判的な論調が蔓延した。そんな出来事を象徴するような1枚が、このEL&Pの『展覧会の絵』(Emerson, Lake & Palmer "Pictures at an Exhibition" 1971)、いわずと知れたライブ盤の名盤中の名盤だが、この1stリイシューが最悪だった。一般的に、トラック番号は1曲ごとに付けるのが当然だが、このアルバムのように、組曲で構成されていたり、メドレー形式で収録されている場合、それ全体を1曲として見做す場合も少なくない。こういった場合、組曲自体にはトラック番号を付け、それぞれの構成曲に対してはインデックス番号(正式表記は"IN:DEX")を付けるのが一般的である(ただし、このインデックスなるもの、最近ではあまり活用されていないのが現実である。恐らく、多くの普及機にこのIN:DEX機能が搭載されなかったのが原因と思われる)。しかし、驚くべき事に、 このリイシュー盤には、トラック番号もインデックス番号も無いのだ! いや、正確には、有る、のだが、それは、旧アナログ盤時代のA面が"トラック1"、B面が"トラック2"、なのだ! 当然の如く、アンコール曲である「ナットロッカー」("Nut Rocker")には番号が無いので、頭出しは不可能であるのだ! 正直、このCDを聴いた時には、レコード会社のあまりのやっつけ仕事に対して殺意が沸いたのを憶えている。


超名盤だが、1stリイシューは最悪。レコード会社にとってこれらの作品は金のなる木でしかなく、文化を次世代に残そうなどどいった気概のかけらも無かった。
ところが、である! 現在リイシューされているこのアルバムは、全てオリジナルのUK盤準拠の仕様で、ジャケ内の額縁の中身が全て真っ白なんだが、この1stリイシュー盤はUS盤準拠なので、しっかりと絵が存在しているのである。中古CD盤市場においては、この希少性に気付いている店では、法外な価格を、その逆(特に一般人からのオクへの出品等)の場合は、ほぼ二束三文で入手する事が可能な、非常に不思議な盤である。


こちらは2004年にビクターよりリイシューされた紙ジャケ盤。ご覧の通り、額縁の中に絵は存在していない。各曲ごとにトラック番号が付加されており、リマスタリングも良好で申し分のない出来だ。


さて、EL&Pついでに、こんな事例も紹介しよう。同じくライブの名盤『ディース&ジェントルメン』("Welcome Back My Friends To The Show That Never Ends...Ladies and Gentlemen" 1974)の1stリイシュー盤(1991)には、「悪の経典#9」("Karn Evil #9")という曲が収録されているのだが、この曲は組曲で、それぞれ「第1印象」「第2印象」「第3印象」に分かれており、この盤では上記のIN:DEXにより曲の頭出しが可能となっている。即ち、Disc-2のTRACK-4のIN:DEX-1が「第1印象」、IN:DEX-2が「第2印象」、IN:DEX-3が「第3印象」…と思いきや、実はこれが「第2印象」の途中部分なのである!つまり、IN:DEX番号を打つべき場所を完全に間違えているのだ! 「第2印象」は、途中でテンポが変わる部分があるのだが、そこを「第3印象」の頭と勘違いしているのである。しかし、これなどは、その作業者が例えEL&Pファンでなくとも、楽曲を一通り聴いた身であれば間違えるはずが無いのである! もっと言えば、この間違いが、どのセクションをも素通りして、最終的に商品化されてしまった事こそが、大問題なのである。
この項、続く。


IN:DEX番号の打ち間違えのある1stリイシュー。そもそも、この盤にはIN:DEX番号が付加されている記述が一切無いので、この間違いに気付いた人も少なかったと思われる。
ジャケットは2CDの横長ケースに対応させるために、横を基準に拡大したオリジナルジャケットの下部分を単純にぶった切っただけの、超やっつけ仕事。当時としては、これが普通の感覚だったのだ!