『ザ・ビートルズ 1+』 ~デラックス・エディション~(完全生産限定盤)(CD+2Blu-ray) CD編。

ザ・ビートルズ 1』("THE BEATLES 1")が初めて世に出たのが2000年の11月13日、つまり今から15年も前ということになる。この『1』とはイギリス本国かアメリカで1位を獲った曲のみを収録したもので、必然的にベスト盤となる。結果として爆発的な大ヒットを産み大成功を収めたわけだが、後に、いわゆる「09リマスター」でビートルズのオリジナルアルバム及び一部編集盤が一斉にリイシューされた後、2011年に09リマスター準拠で再制作された。さらに、EMIがユニバーサル傘下に吸収された2013年に価格改定となり型番も改定された。そして2015年の本作となるわけだが、今回はリマスターではなくリミックスである。判りやすくいうと、2chアナログマスターを使用してのリマスターではなく、その上のマルチトラックにまで遡って音を弄ったものだ。つまり、新たに作業に関わった人間の解釈で音を作り直すということである。そのリミックス作業はジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンによって行われた。しかしながら、今更リミックスというのもおかしな話だとは思う。なぜなら、「09リマスター」は当時のリイシュー盤で展開されていた音圧上げ戦争に終止符を打ち、その後のリマスタリングのスタンダードとなった、非常に意義のある作業だったからだ。だから、09リマスターで一度再制作された本作を改めてリミックスして発売する意味をあまり感じなかったのだ。もちろん、映像作品のみの商品も同時に発売されるのだが、こうなると、メインとなるのがCDの『1』なのかBD(DVD)の『1』なのか良く判らない。リミックスアルバムとしてのCD『1』を売りたいからBD『1』を作ったのか、或いはその逆なのか? 答えは、おそらくそのどちらでもなく、多分、両方なのだと思う。その根拠は今回の製品ラインナップを見れば一目瞭然だ。CD『1』、DVD『1』、BD『1』、CD+DVD『1』、CD+BD『1』、そしてCD+DVD+限定盤DVD『1+』、CD+BD+限定盤BD『1+』の計7種類にものぼる。これじゃあ、節操のない商売といわれても文句は言えまい。もちろんこれは、EMIがユニバーサル傘下になったというのが最大の理由だと思うが、なんにしたって、マニアにとってみれば、CD+BD+限定盤BD『1+』の一択になるんだから、こんなに多くのラインナップには全く意味がないんだな、これが。






さて、すっかり前置きが長くなってしまったが、今回はCD編という事で、CDについてのレポートである。最初に、CD『1』は全27曲が収録されたリミックスアルバム。そのうち最初の3曲「Love Me Do」「From Me To You」「She Loves You」はモノラル、それ以外はステレオによる収録である。最初に聴いた印象としては、音が軽い。音のバランス、定位が悪い。そして、残響音の処理がおかしい。これじゃあ、全く持っていいとこ無しじゃん!と思われる方も多いと思うが、実際にいいとこ無し、なのである。まず一聴して判るのは、ドラムの音が極端に小さく、その割りに、バスドラムとベースが異常に大きいという事。あきらかにバランスが崩れてしまっているのだ。もうひとつ、バスドラの処理の仕方。リンゴのドラムチューニングってのは独特だし、活動時期によっても大きく変化するのだが、このアルバムでは一様に同じ処理で、バスドラが大きい割りに残響音の処理が下手でボン突くかんじだ。判り易い例としては、22.「Get Back」でのビリー・プレストンのKbソロでのバック。これなんか、体育館で数人同時にバスケット・ボールをドリブルしている様な音で、聴くに耐えない代物。さらに良くないのが、スネアドラムの処理だ。これはどこをどうすればこんな情けない音になるのか教えてほしいくらいだ。まずリンゴのスネアの特徴としては、オープン・リムを多用しているという事。さらに、独自のチューニングのため、ズバーンという独特の残響音がある。「Tcket To Ride」「Day Tripper」「Yellow Submarine」「Hello,Goodbye」等でバシっと決まるはずのスネアが、リムショットの芯が抜けてしまって全くの別物になってしまっている。さらに良くないのがベースの音で、音が大きいくせにゴム鞠の様なボンボンと跳ねた状態で、そして芯がない。音が大きいのにこれじゃあ、全く持って意味がない。例えば「Come Together」の様なベースが特徴的な曲では、リミックスの強みを生かして、ベースを浮き上がらせていて、指が弦をスライドする音までもがはっきりと聞こえるんだが、やはり音そのものが詰まったかんじで非常にもったいない。この、バスドラとベースの組み合わせは最悪で、中にはオリジナルの『1』と大して変わらない(あまり弄っていない)曲もあるんだが、大抵の曲がダメだ。また、埋もれていた音をトラックごと引っ張り上げる際に、オリジナルではカットされているノイズだとかミストーンみたいなものがそのまま入っている箇所があるのも気になる。さらにいえば、そういう引っ張り上げた音と、既存の音のすり合わせが全く出来ておらず、唐突にでかい音が聞こえたり、或いは、急に音が小さくなったり、とにかく細かな部分の処理がずさんなのだ。結果として、一部でコーラスが異常に大きく聴こえて、メインボーカルが陰に隠れたり、一部の楽器が異常に大きく鳴って、ボーカルがかき消されたりしている。
これ、どんな状況でモニターすればいいんだろう? もしかして、イヤフォンとかヘッドフォンでの鑑賞を前提にしてるのだろうか? いや、もうそれで検証する気はさらさらないけどさ、まあ、褒めるとすれば、非常に先鋭的でスタイリッシュ。ある帯域に限っていえば抜けがよくて心地良いのかもしれない。まあ、「09」にあった音の塊みたいな無骨さがない、アナログ時代を否定するようなリミックス・リマスターといったところか。とにかこのリミックスは個人的には無理だと感じた。あとはもうBDに期待するしかない!頼むよ、ホント…。




今回は輸入盤という選択肢もあったのだが、日本盤のみSHM-CD仕様で、72Pのブックレット(解説対訳、英歌詞、歌詞対訳)が付属するので、そちらを選択した。