ウイスキーに合うアルバム No.09 - ジェフ・ベック 『ライヴ・ワイアー』(1977)

初っ端から結論を書いてしまうが、これはジェフ・ベックの頂点である。ビートルズのプロデューサーとして数々の作品を世に送り出して来た、ジョージ・マーティンを迎えて制作された『ブロウ・バイ・ブロウ』"BLOW BY BLOW"(1975)、『ワイアード』"WIRED"(1976)は、それまでの彼のギタリストとしての評価を一変させた。発売当時は、ビルボードのジャズ部門でエントリーされていたのだから、もうこれはロック・ギターの範疇には収まらないまでに進化していたという事だ。ただし、これはジャズではない。例えば、フュージョンって言葉があるけど、これはプログレと同じく、何か型に収める事の出来ない音楽を形容するのにはもってこいの言葉だ。だから、その場所の近くをすれ違ったりしただけでも、まあ、フュージョンでいいじゃん、って事になるw でも、本当にジャズをやりたきゃ、ジャズギタリストを目指せばいいだけで、そうならないってのは、彼が自分にしか出来ない音楽を、プレイを、目指していたからであって、フュージョンなんて言葉は勝手に後から着いて来ただけなんだ。



このアルバムの正式タイトルは"JEFF BECK WITH JAN HAMMER GROUP LIVE"である。従って、純然たるジェフ・ベックのライブ・アルバムではない。何よりも本作のプロデューサーがヤン・ハマーであり、曲の方も全7曲中、3曲がヤン・ハマー・グループがメインである。まあ、このライブに於けるジャズ的なアプローチは、彼に任せてしまった方が得策であると判断したのかもしれない。もちろん、全てがよい結果を生む事となったわけだ。例えば、どんなに優秀なギタリストであっても、インスト曲のみを延々と演奏されれば、中だるみもするってもんだ。だから、ヤン・ハマー・グループとしての唄曲が2曲あるってのは、実は非常に大きい意味を持つわけだ。
さて、このアルバム、何と言っても夜だ。夜のフリーウェイを疾走するクルマだ。"Freeway Jam"では、彼等(バンド)が運転してくれるのだから、こちとら助手席で一杯やっていようが何ら問題はないw 空を見上げりゃ満月で"Full Moon Boogie"、やがて完全なる闇"Darkness"が訪れる。いやあ、それでも、最後は夜風"Blue Wind"にあたって酔いも醒める、いや、醒めないさ! …このアルバムは、もう、それこそ死ぬほど聴いているけど、最近になって、この"Blue Wind"という曲が、物凄いロックなんだって思う様になって来た。まあ、リフとか、途中で"Train Kept A Rollin'"が演奏されたりとか、もちろんそういうのもあるんだけど、なんというか、最後はやっぱりロックで〆てみました、みたいな、そういったルーツに対する敬意だとか、もしかすると、意地なのかもしれないけど、そういったロック・スピリットを感じるんだな。
なんか、この後は、4〜5年に1枚くらいのペースでアルバムを発表して行ったが、大したヒットには恵まれなかったし、それらのアルバムで、何か物凄い事をやろうとしたわけでもなかった。確かにテクニックには磨きがかかって、凄まじい事になっていたけどさ。彼もまた、80年代を上手く渡ることが出来なかったんだな。


ヤン・ハマーとの83年のライブから"Blue Wind"。70年代のものは映像作品として残っていないものと思われる。

【Blu-spec CD】ライヴ・ワイアー

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