松田聖子 『Pineapple』 のSACD/CD ハイブリッド盤を聴く(その2)

雑誌「Stereo Sound」とソニー・ミュージックの共同企画による松田聖子SACDプロジェクト第2弾、『Pineapple』のレビュー、そのつづき。(その1)はこちらになります。今回はアナログ盤でいうところのB面、06〜10までのレビューとなります。



まずは06曲目「ピンクのスクーター」。当時、電話は、離れた相手と繋がることの出来る唯一の手段だった。だから相手が出なけりゃ、それでお終い。後は直接逢いに行くしかなかったのだ。だから、Aメロで電話の呼び出し音がしつこく鳴り続けているのは、それだけ募ったイライラを表現してるわけだ。しかし、歌い方は決してギスギスとした感じではなく、いたずら心に目覚めたといったちょっと御茶目な歌い方。それにしても、SACDでは彼女のぽわ〜んとした歌声が、オケの前面にしっかりと出ている。もちろん分解能の高さから、各楽器のディテールがはっきりしているのは言うまでもない。07曲目「レモネードの夏」。今じゃすっかりクマムシの元ネタとして有名になっちゃったけどw、まあ、今の感覚じゃあ、それだけアイドルっぽいメロディなんだろうけど、ユーミン作曲という事もあって(ユーミン作曲で松任谷正隆編曲じゃない曲も珍しい)、当時はいかにもニューミュージックという感じだった。SACDでは「♪も〜お〜一足早い夏」の「も〜お〜」の表情豊かな歌声が生々しい。EGのカッティングやグロッケンの存在感もいい。08曲目「赤いスイートピー」。この曲が彼女の代表曲であるという事に異を唱える人は恐らくいないだろう。当時は考えられないほど多くのアンチ松田聖子の女性が存在していたのだが(しかし、クラスの8割くらいの女子が聖子ちゃんカットだったのもまた事実w)、この曲が彼女達を一気に納得させ、多くの女性ファンを獲得したのは言うまでもない。SACDとなって初めて聴くこの曲は、未だに色褪せる事無く、驚くほどの新鮮さを持って彼女の歌声が展開される。あまりにも有名曲過ぎてちょっとばかり食傷気味だったこの曲がが、くぐもったベールが削ぎ落とされた事によって、新たな感動を呼び起こした。それはちっとも大げさな表現ではないと断言しよう。09曲目「水色の朝」。財津和夫作曲だが、聴き所は大村雅朗編曲によるスリリングな展開のストリングスで、伸びやかな彼女の声との絡み合いが素晴らしい。10曲目「SUNSET BEACH」。以前ブログでも書いたのだが、やはりこの曲の不協和音の上に乗る"死"という言葉は強烈で、しかしそれは逆に、鮮烈に"生"を際立たせる。同じく死を連想させた03「ひまわりの丘」と同じ来生たかおの作曲であるから、もしかすると松本隆は確信的にそういったイメージの歌詞を乗せたのかも知れない。ぽつりぽつりとつぶやく様に寂しげに歌う彼女が、後半、溢れ出る感情を何とかコントロールしながら歌い上げる様は圧巻だ。ハーモニカやマンドリンアコーディオンといった、あまりアイドルポップスでは使われない楽器が、古いイタリア映画の一場面の様なノスタルジックなイメージを浮かび上がらせる。
既に30年以上が経過しているにも関わらず、このアルバムがSACDとなった事は、物凄く奇跡的な事だと思う。ただ、それは、多くのファンが彼女と寄り添って生きてきた事の証でもある。この渚の果てで、一緒に生きて行こうと、あの時、確かに誓ったのだ。

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