ザ・フーの『四重人格』と『さらば青春の光』 2

前回より続き。

ロックが大人になることは未知の領域であったが、その初期衝動を内包したまま完結できる唯一の方法があった。「マイ・ジェネレーション」(The Who"My Generation"1964)は大人に対する若者世代からの一方的な宣言であるが、気弱そうなガキが、ビクビクと、どもりながらもそれを宣言する…"I hope I die before I get old" 即ち、歳取る前に死んでやる、と。そして、本人がそう望む、望まないに関係なく、ロックの神によって選ばれた何人かのロッカー達。その内の一人は、言うまでもない、キース・ムーンその人であった。ザ・フーにとって、この神の選択は致命的であった。キースは永遠となったが、同時にそれは、何をどう正当化しようと、召された者に対して、立ち向かえる術が何一つない事を意味していた。27歳組の連中を例に出すまでも無く、それは永遠に超えられない壁として立ちはだかる事になる。だが、あえて言おう。だからこそロックなのだと。例えそれが、どんな方向へ進もうとも、彼らが立ちはだかる限り、ロックはガキ供の代弁者足りうる資格を維持し続けるのだと。そして、それに立ち向かう事も、またロックなのだ。

閑話休題
話を最初に戻そう。DELUX EDITIONの事へと。
前回も述べたように、このアルバムを含め、いくつかの関連アイテムが手元に有るのだが、今回のリイシューでは2パターンのアイテムが発売された。ひとつは本編+ピートによるデモの2枚組からなる『DELUX EDITION』。もうひとつは、1枚に独立した2枚組みの本編、2枚組のデモ、5.1chサラウンドによるDVD-Audio1枚の計5枚組+"5:15"のEP盤、更に豪華な写真集と解説書、それを収めたBOXからなる『SUPER DELUX EDITION』である。本編自体は、94年にリイシューされたリミックス盤を元にリマスターされたものとの事だが、これには理由があって、当時のステレオセットに「QUADRAPHONIC」なる4チャンネル再生技術が導入され、流行の兆しを見せていた(結局は普及せずに終わる)。これを受けて、当時ミックスされたのがオリジナル盤であり、QUADRAPHONICで再生する際に、最も効果を発揮できるミックスとして、ヴォーカルが多少小さめに収録されていた。このQUADRAPHONICがアルバムタイトルと被っているのは偶然だが、もしかすると、その相乗効果を狙ったのかもしれない。94年の他のリイシュー盤がオリジナルに忠実であったにも拘らず、このアルバムのみリミックス仕様となったのはそういった理由からである。今回のリイシューでは、このリミックスを踏襲しているのだが、困ったことに、自分が好きなのは、リミックスでは無く、オリジナル・バージョンであるのだ。つまり、94年リミックス盤は所有しているが、それは殆ど聴いていないのが現状で、例えば、Disc-1のラスト曲"I'v Had Enough"では、大好きなバンジョーの音が、ボーカルの奥に引っ込んでしまい、スリリングな展開が台無しになってしまっているのだ。まあ、今回は、そのリマスター盤であるから、幾分違った印象を受けるのかもしれないが、自分にとって、これはかなりの減点となる。また、収録曲数の違うデモ曲であるが、その内の10曲程度は、恐らく所有の音源とダブると思われるが、前者と後者の収録曲数があまりにも違いすぎるので、この事実を以って、前者を購入する選択肢は完全に無くなる。実は今回のブツで一番食指を動かされたのが、ピート自身によるこのアルバムのライナー・ノーツだ。本人が4ヶ月掛けたという、それを読まずして、このアルバムを語ることなかれ、と言われれば、むむむと唸る他ないのだ。…むむむ。

四重人格 ?ディレクタ?ズ・カット<スーパー・デラックス・エディション>

四重人格 ?ディレクタ?ズ・カット<スーパー・デラックス・エディション>


以下、所有アイテムの内のいくつか。



上下共左:88年頃購入の西ドイツ盤CD。ザ・フーは当時の日本では、知名度はあれど人気の無いバンドで、ましてや『四重人格』などは『トミー』の二番煎じといった程度の評価。国内盤リイシューは絶望的で、輸入盤屋を探し回って手に入れた。ブックレット(写真集)付きのものはこの西ドイツ盤しかなかった。ただし、右:94年リミックス 日本盤、と比較すると、ジャケットがトリミングされ、裏の文字配置も変更されている。LPの正方形を2枚組CDケースの長方形にする際に、適当にトリミングされたと思われる。当時、こういったやっつけ作業のリイシューも多かった。


左は映画『さらば青春の光』のサントラ盤。国内では、映画のヒットにより、本家『四重人格』よりもこちらの方が先にCD化された(88年)。94年リマスターの際、2枚組から1枚ものに変更され、ザ・ハイ・ナンバーズ("The High Numbers"ザ・フーの初期バンド名)の「アイム・ザ・フェイス」("I'm The Face")が追加された。更に、今月12月21日に紙ジャケ盤がリイシューされるが、ザ・ハイ・ナンバーズの2曲=前述曲と「ズート・スーツ」("Zoot Suit")がオリジナル・モノ・バージョンに変更される予定だ。悩ましいw 右は海賊盤で、全編ピートの手によるデモ集。音質は文句無く良い。

さて、最後になったが、映画『さらば青春の光』("QUADROPHENIA"1979)のアイテムについて書いておきたい。DVDはリイシュー後(画質はかなり粗い)何度か再発を繰り返しているが、980円という破格値での期間限定販売された事もあった。2009年には2枚組のリミテッド・エディション(この時、リマスタリングが施されたかは未見につき不明)、更に今年9月、通常盤が再発。そして、今月、12月21日に、待望のブルーレイが発売となる。画質に音質ついては現段階では不明だが、価格が1,980円と安価なので折を見て購入の予定。
四重人格』と『さらば青春の光』にはなかなかおさらば出来ないのである。


DVD。980円の期間限定販売盤。中身は通常盤と同じ。ジャケットの写真は前回紹介したポスターとは違うものだ。
さらば青春の光 [Blu-ray]

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