2015年も終わりだね〜

今年も色々な書籍を購入したのだが、ブログではあまり書く機会がなかったので、ごく一部ではあるが紹介してみようと思う。
まずは今年一番話題となった芥川賞受賞作品、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹の『火花』から。
芥川賞受賞後だったので、再掲された文芸春秋を購入したのだが、それでも念のため、最初の数行は立ち読みした。その時の感想を言えば、まあずいぶんと優等生的な文章だなあと。なんというか、純文学の出だしとしては、まるでお手本のような入り方だなあと思ったのだ。物語は主人公が師と仰ぐ先輩芸人の、お笑いに対する探究心むき出しの、狂気にも似た行動が延々と綴られるのだが、中盤に入るとそれも食傷気味となり、展開としてはちょいとばかり厳しい。物語の後半、失踪した先輩芸人が戻ってくるくだりと、エンディングには賛否両論あるだろう。個人的にはあれでもよかったとは思うが、他の選択肢が全くなかったわけでもないと思う。
芥川賞というのは知っての通り、文芸春秋社の賞であるから、選考方法も何もかもが密室で、決して公平に選出されるわけではない。ぶっちゃけ本を売るための宣伝ともいえる。そういった意味に於いては、お笑い芸人が非常に優れた文章を書いただけでも、それが極めて有利な方向に働いた事は間違いないだろう。ただし、だからといって、この作品が大した事がないというわけではない。彼の文学に対する愛情が、本作のあらゆる場面から感じ取る事が出来るのだ。



高田郁の『あい』は明治時代に実在した医師関寛斎、その妻あいを主人公に据えた作品。前年、『みおつくし料理帖』が完結。次なる作品に注目していたのだが、実話に基づいた作品だったのには驚いた。文庫本で約300ページの作品だが、正直に言って、このページ数では尺的に物語が収まらない。したがって、物語が駆け足で進んでいってしまい、いささか消化不良気味。あとひと盛り上がり欲しいところで話が終わったりする事もしばしば。何よりも12人もの子供達(死んでしまった子も多い)がいるのに、作品で語られるのは数人なので、主人公の人生に深くのめりこむ事が出来ない。
つづいて『蓮花の契り』。小説としてのデビュー作『出世花』のまさかの続編。主人公は弔いを専門とする寺で新仏を清め(湯灌)あの世に送り出す作業に従事する、"三昧聖(さんまいひじり)"と呼ばれた娘。前作同様、ちょっとした謎解きのような要素も絡んでいるので、とことん重い話にはならないのが良い。ただし、後半はそういった要素も薄れ、物語を終わらせるために物語が展開して行くかのような進み方になっているのが少し残念だ。物語が本作を持って完結してしまったのはちょっと惜しい気がする。



丸山宗利の『昆虫はすごい』は、当初あった本の帯を全面をカバーするタイプに変更した事によってベストセラーとなった新書だ。一般的に新書の場合、カバーは全て統一されるため、独自の色が出難い。そう考えると、新書の新刊ってのは、書店ではあまり目立たない存在なのだなあと思う。
肝心の中身の方だが、様々な昆虫の生態が紹介されているが、ちょっとばかり昆虫に詳しい人なら殆ど見聞きしたことのある内容ばかりだ。ただ、殊更難しい内容が展開されるわけではなく、一般向けとしてはちょうどいい難度だろう。当たり前のことでも、思わずハッとさせられるような記述も多い。例えば、生物模倣という言葉があるが、これは工業製品などで生物の体の仕組み等を模倣するという意味だ。つるつるの壁をよじ登ったり、高所から落下してもダメージを全く受けなかったり、体表が全く汚れなかったりするその仕組みは解明されておらず、もしそれらが応用されれば画期的な製品となる事は間違いない。例えば、鈴虫がなぜあの体からあれだけの大きな音が出せるのかは解明されていない。一般的にオーディオセットで音を出す場合、使用するエネルギーの90%以上は熱に変換されてしまうため、非常に効率が悪い。もしも鈴虫の発声(音)メカニズムが解明されれば、非常に少ないエネルギーで大きな音を出す事が可能になるかも知れない。


左が普通のカバーで、その上に右側の全面カバーの"帯"が被っている。

ユリイカエリック・サティの世界』。
子供の頃から「特集号」というのが好きで、特に、通常の雑誌なんかが、その号に限って同じ題材を基に編集されたりする場合があって、例えば子供の頃、「科学と学習」という雑誌があって、その「科学」が、夏休み特集号として、レギュラーの連載全てが夏休みを主題にしたものに変更されていた号があって、夢中になって読みふけった事を憶えている。そういう読み物が好きな人にとって、ユリイカの存在ってのはおもちゃ箱みたいなもので、とにかく読んでいて飽きない。様々なジャンルの識者が一堂に会しているのも面白く、中には自分とは全くリンクしないジャンルも多々あって、それをきっかけに、新たな世界に足を踏み込む事も珍しくない。サティの特集にナマコプリが登場したり、ヤマザキマリの作品が掲載されるのは痛快だ。