『男と女』 ("Un homme et une femme" 1966)

ビデオデッキが壊れてからというものビデオテープが死蔵状態になっており、そこに収められた大量の映画も(当然ながら)ここ何年も殆ど観ていない。去年の年末に『明日に向って撃て!』("Butch Cassidy and the Sundance Kid" 1969)が放送されていて久々に観たんだが、やはりこの時代の映画が一番面白いかもしれない。映画はビデオで録画したりしていたので、DVDはあまり所有しておらず、これからBDでちまちまと揃えて行くのも楽しいかもしれない。そんな数少ない手持ちのDVDなんだが、その中から久々にルルーシュ『男と女』"Un homme et une femme"(1966)を観たくなった。



これ、間違えて同じDVDを買ってしまったというくらい好きな映画なんだが(「特別編」と書いてあってので買い直したつもりが、所有していたDVDが既に特別編だったというオチw)、この映画で最も重要なのは、何といってもフランシス・レイとピエール・バルーによる音楽だろう。そもそもルルーシュは音楽を映画に於ける最重要要素として捉えており、この映画でも、予め出来上がっていた曲からインスピレーションを得てシーンを作ったり、撮影途中に出来上がった新たな曲に対して全くの新しいシーンを追加したりしている。フランシス・レイはクラッシク畑の出身ではなく、エディット・ピアフのバックでアコーディオンを弾いていた人だ。だから、壮大な曲より(もちろんそういう曲もあるが)何か心に響くアンニュイなメロディを伴った曲が多いのだろう。この映画で最も有名なのは例の「♪ダバダバダ〜」のテーマ曲だが、そのあまりに特徴的な出だしの音…何か非常に変わった音色なんだが、あれはエレクトリック・アコーディオンという楽器で、レイはどうしてもその音色を使いたかったのだそうだ。


一方、この映画を形作るもうひとつの音楽はピエール・バルーの手によるもの。彼はアンヌ(アヌーク・エーメ)の事故死した夫の役で、彼女の回想シーンの中でのみ登場する。バルーとフランシス・レイはこの映画に関わる以前から親しい友人で、バルーをルルーシュに紹介したのも彼だった。前述の通り、映画のプロットは曲と共に作られて行ったそうだ。それだけ、この映画は音楽と密接に関わっているという事だ。しかし、驚いたのは、この映画での主人公達は30代半ばという設定なんだが、撮影当時のルルーシュは、なんと28歳という若さだったという事。まあ、早熟だったのかもしれないが、それにしても自分の場合、いくつになってもあんなカッコよい部屋の取り方は出来なかったし、多分、これから先も無理だろうw ただ、自分と大して変わらないのは、レースが終わってから女の元へ急行するまで、男があれやこれやと妄想する部分だな。実はああいう子供っぽい描写がこの映画のアクセントになっているのだと思う。


ピエール・バルーの「サンバ・サラヴァ」。ブラジルで録音されたテープを帰国後そのまま使用している。サンバの偉大なる作曲家たちの名前はこの曲で憶えた。

爆発的なヒットを記録したこの映画だが、ヌーヴェル・ヴァーグの連中からはあまりにも通俗的過ぎると非難もされた。だが、本当の意味での映画の面白さ…それは映像美であったり、単純なストーリーであったり、そしてなによりも素晴らしい音楽だったり、がそこにはある。今の時代、こんな映画が作られることは、もう絶対に有り得ないのだと断言できる。多分、ルルーシュにとってもそれは十分自覚しているのだろう。奇跡はそう何度も起きやしないのだ。


オリジナル・サウンドトラックCD


実はこのサントラには"English Language Version"なるものが存在する。歌(歌詞)の入った曲は全て英語に差し替えられているのだが、当時英語で吹き替えられたものが公開されていたかは不明だが、そのサントラの可能性が高い。ただし、現在ではCD化されていない模様。そもそもこのLPはそれとは知らずに(フランス語盤と)間違えて買ってしまったものなのだ。