松田聖子『風立ちぬ』『Pineapple』のハイレゾ音源を聴く

ネットでいつの間にか貯まったポイントを使おうと思ったのだが、案の定ろくな商品がない。唯一使えそうなのが音楽配信サイトmoraのギフトだったのだが、お釣りが出ない関係上、ハイレゾアルバム2枚と、単品2曲をポチった。購入したのは松田聖子の『風立ちぬ』『Pineapple』のアルバム全曲と『Candy』の中の大瀧詠一作品「四月のラブレター」「Rock'n'Roll Good-bye」の2曲だ。




本題に入るその前に、そもそもハイレゾってなんぞ?と思う方も多いかと思うので、少しばかり解説を。ハイレゾはCDと違って、人間の可聴範囲をはるかに超える帯域までをもカバーしている(原理上は100kHzを超える)超高音質ファイルだ。ただ、この「ハイレゾ」という言葉の使われ方はアバウトで、SACDの様な超高音質のディスクもこれに含まれる。ただし、混乱を防ぐためここでは「ハイレゾ」=「ハイレゾ配信ファイル」として区別することとする。moraのハイレゾ配信ファイルは"FLAC"という可逆圧縮ファイル(100%元に戻せる圧縮ファイル)で、解凍して出来上がる"WAV"ファイルは、容量が解凍前と変わらないので圧縮率0%で固めているという事になる。配信の場合、この"FLAC"が一般的だが、SACDに使われている"DSD"(DSF)もある(e-onkyo music!等)。DSDは音質的にFLACやWAVよりも有利だと言われているが、ここまで高音質だと聴覚上での判別はほぼ不可能だろう。配信ファイルは基本的にコピーフリーだが、SACDには強力なプロテクトが掛かっているのでリッピングは難しい。SACDが普及に失敗した一番の原因は、このコピー不可という仕様だと思われる。しかし、特定のハードとプログラムを入手すればそれは可能だ(ただし違法)。抜き出したDSDファイルは、PC以外にもハイレゾ対応のポータブル・オーディオ、ネットワーク・プレイヤー、ユニバーサル・プレイヤー等で再生が可能なので、合法ならばそれなりの需要は見込めるだろう。
さて本題。松田聖子の『風立ちぬ』『Pineapple』はSACDでも所有しているので、その聴き比べという手もあるのだが、実はこのハイレゾ音源に使用されたマスター・テープがSACDのそれと同一ではない可能性がある。その理由は、まずSACDの場合、StereoSound誌がSONYよりマスターを貸与されて、それを元に作業しているのだが、SACD化された『風立ちぬ』の中の数曲は、テープの経年劣化に起因する音の撚れが存在する。これはマスターより遡って音を弄れない以上、どうすることもできない。ところがハイレゾ音源では、この音の撚れは存在しない。これはそもそも複数の同一マスターが存在するか、マスターのコピー=第2世代マスターが存在するか、或いはハイレゾ化にあたり、マルチ・マザーから新たにマスターを作ったか(この場合は厳密にはリミックスという扱いになる)ということになる。ただし、仮に同一マスターだとしても、別々にリマスターが施された時点で、別の音になってしまっているという事だ。実際、このハイレゾSACDに比べて収録レベルが大きい。これに対し、SACDは最近のCDと比較してもレベルが小さい。しかし、元々両者ともダイナミックレンジが広いので、今どきのリマスターCDの様にわざわざ圧縮(コンプレッサー)をかけてレンジを広げてやる必要は全くない。では、なぜ上げるのかといえば、聴感上音量が大きい方がなんとなく音がいいという印象を受けるからである。圧縮は音をわざわざ潰してしまうので、音質は多少なりとも劣化する。理想はフラット・トランスファーだが、経年劣化によるハイ落ち等を補正する必要がある。このSACDは音量はあまり弄らずに収録しているが、圧縮による劣化はないので、音質的には有利だ。印象としてはハイレゾはフレッシュで勢いがあるが、良くも悪くも今どきのリマスター。SACDは非常に繊細で音に気品があり、オリジナルを極力壊さない事に注意を注いだリマスターという感じだ。乱暴な評価をすれば、前者はポータブルオーディオ向け、後者はオーディオセット向けといったところか。