ビートルズのリマスター盤、とりあえず『Revolver』『Sgt.Peppers』『Magical』を聴いてみた!

本日、ビートルズの最新リマスター盤が発売された。ところで、このリマスターという言葉の意味は、時代と共に少しずつ変化している様だ。90年代後半、デジタルオーディオ技術の急速な発達により、各社はこぞってリマスター盤を発売したのだが、そこにはオリジナル盤では埋もれていた音が聞こえるような処理が施されていた。曰く、「当時、本当に目指していたであろう音を現代に再現しました」。これがビートルズで言えば『Yellow Submarine Songtrack』であったわけだ。これについては、今回のリマスター盤発売の一報を受けて書いた記事でも言及している(こちら)が、要するに、聞こえなかった音が聞こえている時点で、既にオリジナルではない。それは、リミックスなのだ。また、「With a Little Help from My Friends」でのポールのベース音が、絶望的に変化してしまった時点で、これはもうリマスター以前に“失敗作”である。ポールのベースが歌ってねえ! また、「Eleanor Rigby」の♪Ele〜部分でのミックスミスが修正されるに至っては、余計なお世話以外の何物でもない! …とまあ、以前のリマスターに対する考えは、オリジナルを自由に改変する事もよしとされる風潮があったのだ。しかし、アナログ盤風味を前面に押し出し、極力オリジナルに忠実なリマスターを施した、ユニバーサルの「DELUX Edition」シリーズ等が高い評価を博したのをきっかけに、当時の音をなるべく弄らずに再現しようとする機運が高まった。その頃発売された『1』ではオリジナル寄りのリマスターが行われたが、同時に採用された“ノー・ノイズ・テクノロジー”に於いては否定的な意見も多く聞かれた。ノイズが全く聴こえないという事は、イコール、オリジナルに忠実ではないと判断されたわけだ。今回のリマスター作業はこういった前例を踏まえて、オリジナル・アナログ盤に、より忠実な音作りとなっている様だ。
まずは『Revolver』。スピーカーから音が鳴り響いた瞬間に驚いたのは、リマスター盤にありがちなデジタル臭さが殆ど感じられないという事。輪郭を強調したような音作りは一切なされておらず、アナログ盤そのものを聴いている様な錯覚すら覚える。「Taxman」に於ける冒頭のカウントで息を呑み、更にポールの速弾きベースに戦慄を憶える。前述の「Eleanor Rigby」では、ミックスミスがそのまま再現された仕様となっている。(注:『Yellow Submarine Songtrack』でミスが修正され、その後『1』では再びオリジナル仕様に戻されている) この事からも判るように、余計なお世話は一切なく、また、妥協していると思われる点も少ない。
『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band 』。一番気になっていた「With a Little Help from My Friends」でのポールのベース。確かに歌い踊っている! 一番気持ちいいのは、各楽器の分離を殊更補正するようなところが無く、音の塊となっている箇所は、そのまま団子状態で前面に押し出されて来るところ。当時の録音とは思えないような重低音が鳴り響くのだ。オーディオ的な意味での白眉は「Within You Without You」。ここでのタブラ(指と手のひらで叩くインド打楽器)は、当時から驚嘆すべき録音で有名であったが、今回も一際存在感を放っている。2コーラス目の冒頭、ジョージが囁くカウントも生々しい。
さて、個人的には一番のお気に入りである『Magical Mystery Tour』であるが、前2作とはちょいと音が違っている感じを受けた。特にB面に相当する部分は、そもそもがバラ曲の寄せ集めなので、曲によって印象がかなり変わってしまうのは仕方ないのかもしれない。ただ、「Strawberry Fields Forever」を聴いた時は、素直にお帰りなさいと言ってあげた。長い年月を経て、あの音がようやく戻ってきたのだ。
今回のリマスター盤は、100点とは行かないまでも、リマスター盤としての正しい方向で作業がなされたという点に於いては、高い評価を与える事が出来る。ただ、デジタルリマスターによって齎される新しい何かを期待した人にとっては、正直がっかりしたかもしれない。それ程、オリジナルの再現に拘った作業であったと言えよう。


初回限定盤は三面開きの紙ジャケ仕様だが、完全な紙ジャケは「MONO BOX」に於いて再現されているらしい。カラーブックレットと日本語解説、対訳付き。