ビートルズのリマスター盤、とりあえず『THE BEATLES』(ホワイトアルバム)を聴いてみた!(その2)

この『THE BEATLES』(通称:ホワイトアルバム)というアルバムは、オーディオ的に言えばアルバム独自の音というものは存在しない。ご存知の通り、曲の多くがバラバラで録音されたものばかりだし、何よりも、音の方が曲の方法論に従属しているからである。例えば、「Savoy Truffle」のホーンセクションはイコライジングにより低音がカットされてしまっている。また、「Revolution 9」は実際に楽器の演奏や歌唱を録音したものではなく(素材として録音されたり流用されたものはある)、テープの編集作業だけで成り立っている、いわばビートルズ唯一の無歌唱、無演奏作品で、オーディオ的な意味はあまり見出せない。要するに作品に幅がありすぎて、オーディオ的な音の統一性が保たれていないアルバムなのだ。
ところで、このアルバムは基本的に曲間は存在しないのだが、旧CD盤ではクロスフェードを除いて、実は僅かに曲間が存在していた。これは、当時のCD盤の頭出し位置の間隔が、今の様に短く設定出来なかったためで、そのまま頭出しを設定してしまうと、曲の頭が途切れる恐れがあったのだ。今回はこれが是正されたため、曲間はほぼ無くなり、前の曲の終わりが聞こえるようなことは無くなった。
さて、実際に全曲を通して聴いた感想はというと、正直に言えば、ポールのベースがうるさいw ここまで主張するか!といったかんじで、当時、彼がバンドのリーダーとしてイニシアティブを執ろうとしていたが故に、3人に疎まれていた、その辺りの雰囲気がベースにまで反映されてしまっているのが、オーディオを通して感じる事が出来るのだ。何か、ベースだけが必死なのである。勿論、「I Will」の様な、ハミングのみで作ったベースもあるのだが、それにしても、かなりの存在感を感じるのだ。曲単位での感想では、前述の様に、作品によってバラつきがあるため、かなり酷いと思われる部分もあり、中には、ブーミーで音割れ寸前というものまである。また、総じて生楽器の押し出し感が不足している印象を受けた、例えば「Don't Pass Me By」では最後のフィドルの音がどこまで際立つか期待していたのだが、残念な結果に終わっている。「Blackbird」も同じで、D-18の存在感がかなり希薄で、生々しさが全く伝わってこない。もちろん、アルバム全体では良くなっているのだが、アルバムとしての音が存在しない分、曲単位での押し出し感がもう少し欲しかったと思う。これとは逆に、同じ生楽器でも、以前よりも格段に存在感を増したのが、ジョージ・マーティンのスコアによるオーケストラやストリングス系の音だ。もしもこのアルバムから、音楽的な統一性を見出すとすれば、それは彼の手による一連のオーケストレーションであると言えよう。最新リマスター盤の音質についての比較特集をした『タモリ倶楽部』でも言及されていた「Good Night」のオーケストラ。なるほど、これはかなりの出来である。途中、リンゴのハミングの部分で、旧CD盤ではストリングスの芯が抜けてしまっていたために、両者の間でリズムのズレが生じているような聴こえ方をしていたのだが、今回のリマスターでは、しっかりと芯が残っており、リズムのズレは感じられない。またこの曲では、ボーカルが高音寄りに強くイコライジングされているため、オーディオが苦手とする発音(日本語で言えばサ行やタ行の音)では、耳が痛くなる印象すら持っていたのだが、今回はその辺りが上手く補正され、かなり聴きやすい音となっている。
さて、駆け足ではあったが、以上がホワイトアルバムのリマスター盤から受けた音の印象である。このレコーディング直後、彼らは例の悪名高き“Get Back Session”へと突入し、バンドは最悪の方向へと向かっていくのである。メンバーは、これを記録したゴミ屑同然のテープをフィル・スぺクターへと托し、ポールはビートルズ最後のアルバム制作をジョージ・マーティンへと依頼するのであった。次回はその『Abbey Road』の分析を予定している。



アナログ盤を除く所有CD。上中央はブートによるMONO復刻盤。下段はホワイトアルバム30周年記念として発売された限定紙ジャケ盤。実はこのCD、PCにてデータを抜き出し、旧CD盤のデータとバイナリ単位で比較すると、別物である事が判る。そのため、一部ではリミックス盤では?との憶測も流れたが、今もって真実は明らかにされていない。