『僕はビートルズ』 かわぐちかいじ×藤井哲夫

正月に、以前から気になっていた『僕はビートルズ』(作画:かわぐちかいじ 原作:藤井哲夫)の1〜2巻を読んだのだが、これがなかなかの傑作。先日最新刊の第3巻も発売になった。
※以下ネタバレ注意
ビートルズコピーバンドとして名を馳せる「The FAB4」の4人は、やがて世界を見据えた活動を展開しようとするが、ここでメンバーの間に亀裂が生じてしまう。地下鉄の駅で揉み合っているうちに3人はホーム下に転落、そこへ電車が突っ込んで来た。その刹那、メンバーのふたりは昭和35年の東京へタイムスリップしてしまう…。恐らく、SF小説で100万回くらいは使われたであろう古臭い展開だが、面白いのはここから。タイムスリップ先で出会うことが出来たメンバーふたりは、自分たちがThe FAB4として、ビートルズよりも先にビートルズの曲でデビューしてしまおうと目論む。ただ、その真意は有名になろうとする野望だけではない。ビートルズの曲で彼らよりも先に世界的に有名になるという事は、ジョンやポールは、別の曲を書かざるをえなくなる。つまり彼らは、これから全く違うビートルズの曲を聴くことが出来るのではと考えたのだ。もちろん、これはビートルズへの裏切りであり、そして自己中心的な狂気にも似た愛情だ。しかし、例えば、ビートルズを神として崇めるか、墓に葬るかは、とるべき行動は真逆だが感情的には紙一重だ。かつて渋谷陽一は自著で、新しい音楽の世界へ一歩踏み出す為には、ビートルズを埋葬するしかなかった、という様な事を書いていたが、私も中学生の頃、全く同じ感情を抱いた事を今でもはっきりと憶えている。
この後、第2〜3巻では、バラバラになっていたと思われていたほかのふたりも同時代にタイムスリップしており、再会を果たす。しかし、メンバーのうちのひとりは、この行動はビートルズ、そして時代への冒涜だとし、反旗を掲げる。果たして彼らは全く別の新しいビートルズの誕生に立ち会う事が出来るのだろうか?。

ストーリー的にも音楽的な時代背景が非常に重要となるこの作品だが、中でもビートルズの知識無しには十分に楽しむことは出来ない。それを補う形で、巻末には解説が付いているのがなかなか親切でよい。ただ、第3巻ではそれが無くなってしまい非常に残念だ。ビートルズのエピソードになぞられた場面があっても、それに気付くことが出来る人間は少数だと思うので、第4巻ではぜひ再開してもらいたい。とりあえず、今後の展開が楽しみな作品だ。


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