『勝手にふるえてろ』 綿矢りさ 

正月は溜まった本などを読みまくっていたのだが、その中の一冊が去年の夏に刊行された綿矢りさの第4作目『勝手にふるえてろ』。前作『夢を与える』は正直失敗作だった。綿矢にとって初の三人称で書かれた作品だが、これが良くなかった。主人公がどうにも薄っぺらくて、全く描ききれていない。主人公はバカじゃない、のだが、だんだんと理知的とは思えない行動をとり続けるようになる。そこに穴が開いているから注意してね、と言った途端に自ら穴に落ちて行くような、そういった違和感。主人公を恋愛に溺れさせ、無理に悲惨な結末へ導こうとする構成に辟易してしまう。タイトルからして嫌な予感はしていたのだ。

「とどきますか、とどきません。」 綿矢は非常に慎重に言葉を選んで書く作家だが、出だしのこの一文から、やはり上手いなあと感心してしまう。内容は、簡単に言えば、恋愛経験ゼロの26歳女子の恋愛物語。読み進んでいくうちに、最初に思い描いていたイメージが脆くも崩れ去って行く。こいつ、いい歳して、勝手に元クラスメートの名前を使って、SNSで中学のクラス会開催を呼びかけたりする。それが自らの力で第一歩を踏み出したなどど抜かす単なる痛い腐女子Wikipediaで聞き齧ったうんちくを片思いの彼との運命的な結びつきか何かと勘違いしたりする…まあ、こういったキャラクター設定。ちょっぴりコミカルで憎めない部分もあるが、なんとなく20年前の少女マンガ的展開。後半、場面場面で一人称の暴走に歯止めが掛からない。さすがにその辺りを何とかしたかったのか、両親に電話で説教される場面があるのだが、なぜかここだけがホームドラマの様で違和感がある。んー、またしても嫌な予感。結局、主人公は悲惨な結末を迎える事もなく、物語は終わるのだが、これがよろしくない。何か、最後上手くまとめてみましたといった感じの食い足りなさ。デビュー当時から、コバルト文庫だの何だの散々言われてきたが(個人的にはコバルト文庫非常に好きで、氷室冴子の作品は全て揃えたくらいだが)、前回今回と、ちょいと厳しい。行間に潜む何かがほんのちょっと顔を出すのだが、全体としての読み応えにまで繋がって行かない。
眩い言葉で彩られた心象風景、それは、ともすれば痛々しいくらいの瑞々しさを持って読む者の心を惹き付ける。砂場でキラキラと光る何かを見つけて、またすぐに見失ってしまった様な…ここにとどまってまだ何かを探すべきか、或いはもう諦めてしまおうか? だが、勝手にふるえてろと突き放す勇気もない。

勝手にふるえてろ

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