きっと何者にもなれないお前たちに告げる 『輪るピングドラム』

輪るピングドラム』は『少女革命ウテナ』以来実に12年振りとなる、幾原邦彦の監督作品である。かなりの期待感を持って迎えたこの作品は、その予想を遥かに上回る出来で、個人的には今のところ非の打ち所がない。ウテナ同様、毎回"キメ"となるシーンが登場するのだが、プリンセス・オブ・ザ・クリスタルなる謎の人物による科白が、この「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」である。そして最後にこう言い放つ、「生存戦略しましょうか」。このクリスタルなる人物は双子の主人公達(高倉冠葉、晶馬)の妹(陽毬)に憑依しており(実際には、死んでいる陽毬?に乗り移り一時的に延命しているという設定)生存戦略として「ピングドラムを手に入れるのだ」との指令を下すのだが、このピングドラムが何なのかは不明で、おまけに彼女の下僕らしきペンギンに似た一般人には不可視の生命体が3匹登場する。…とまあ、例によって意味不明の世界である。
ウテナの世界観に比べれば遥かに取っ付き易いし、アニメーション自体は12年という年月の流れを実感させるには余りある程スタイリッシュで、近未来的なアプローチも多い。ウテナとの決定的な違いは、コミカルな演出が多い事か。前述のキメのシーンでは、クリスタルがなぜかコスチュームを1枚ずつ脱いで行くのだが、最後には全裸になり、心臓に手を突っ込み何かを掴みだす。この辺りは、ウテナがアンシーの胸から剣を抜き出すシーンを髣髴とさせる。ただ、コミカルな場面でピンクの薔薇がやたらと登場するのは、ウテナに対する自らのパロディの様にも受け取れる。
最後に音楽だが、OPはやくしまるえつこメトロオーケストラ。まあ、これはいいが、問題なのはクリスタルの登場する異空間でのBGM『ROCK OVER JAPAN』(トリプルH)。何とARBのカバーであるw いや、これ、よく石橋凌が許可出したなあ。何はともあれ、最高にカッコイイのだ。


キメとなる変身シーン。歌舞伎的な演出要素が強い。時間と空間を超越した場面転換、大げさな所作と科白回し、体に比べて異様に大きく奇抜な衣装、それを一瞬にして剥ぎ取ったりする早業等々、荒事に通じるものがある。

TBSでは金曜の深夜に放送。こちらは公式サイト。1話のみ無料配信中。