OCを題材にした二ノ宮知子の新作『87CLOCKERS』 第1巻

自作er(ジサッカー)は何故PCを自作するのか?と問われれば、それは、メーカー製に無い、自分の目的に特化したPCを手に入れたいからに他ならない。例えば、ゲーマーならば、3D描画に特化したそれを構築する為に、グラフィックボードに重きを置いた構成を考える。自分の場合なら、バンド活動の記録を残すのが主な目的となるので、動画の編集やエンコードに特化した構成となるわけだ。一般的には、この様な実用的な目的があって、初めて、それに沿った構成を構築するのであるが、自作PCの世界には、そういった実用目的からは遠く離れた、実に深遠なる世界が存在する。それが、オーバークロック(以下、"OC")の世界だ。ただ単に、自身で選別したパーツにより構築したPCの実力を、如何に引き出すかを目的とし、それを全世界の人々と競い合う世界である。具体的には、CPUの性能を極限まで引き出すために、通常のクロック周波数を上回る設定を施し(オーバークロック)、その上でベンチマーク・ソフト(CPUやシステムの性能を計測するソフト)を走らせ、そのスコアを競うというものである。そして、この世界の住人を"オーバークロッカー"と呼ぶ。
『のだめカンターピレ』の作者である二ノ宮知子の新作が、このOCを題材にした作品であった事に、正直驚きを禁じえなかった。なぜなら、この世界が非常にマニアックであるからだ。音楽大学に通う主人公の一ノ瀬奏(いちのせかなで)は、典型的な草食系男子で、しかも、PCに関する知識は非常に乏しい。しかし、ひょんな事からこの自作PCの、OCの世界へ足を踏み入れる事になる。作者は、正直、この世界には特化していない様で、自作erから見れば、付け焼刃的な表現も散見するのだが、とにかく面白い。いや、自分が自作erだから面白いのか、そうでなくても面白いのかは判別が付かないのだが、とりあえず、のだめ的な、ただ何かが好きで、それに向かって邁進して行くという、前向きな姿勢で物語は進んで行く様だ(ただし、その動機は極めて不純w)。



本作ではOC時に冷却が間に合わなくなり、システムがダウンする様な表現が見受けられるが、液体窒素でのOCでは、CPUの発熱よりも、むしろ、冷却過多のよるコールドバグ(CB=冷却過多によってOSやソフトの動作が不能になる事)や、コールドブートバグ(CBB=冷却過多によりシステムが起動不能になる事)が問題である。従って、CBやCBBへ陥る一歩手前の温度をキープする事が、液体窒素による冷却のキモである。因みに、CBBからシステムを復帰させる為には、ドライヤー等によって暖めなければならないので、作品中の、不用意なドライヤーの使用によって部屋のブレイカーが落ちる描写はちょいとおかしい。


写真はASCII.jpの記事より。   (記事はこちら)
AMDマニアが狂喜した、伝説の公開OCテスト。実際に使用されたCPUは、現在、自分がメイン機で使用している"PhenomII X6 1090T"の"Black Edition"モデルである。"Black Edition"とは、固定クロックを解除したもモデルで、予めOCされる事を目的としたバージョンである。クルマで例えるなら、リミッターを外して、レッドゾーン限界まで突っ込めるモデルだ。だからと言って、OCによる万が一の事態に際しては、保証は一切適用されない。いわゆる、"あくまでも自己責任で"。それがOCの世界だ。

87CLOCKERS 1 (ヤングジャンプコミックス)

87CLOCKERS 1 (ヤングジャンプコミックス)