黒いビートルズを聴く 『Come Together / Black America sings LENNON & McCARTNEY』 V/A

以前、バンドで一緒に演ったベーシストのマゴノシーンという人は、黒人音楽全般に非常に長けた人で、その知識たるや、そこいらの音楽評論家も舌を巻くと思われるほどで、私などの限りなく浅い知識と違って、ブラジルの青空が見えるほど深いのであります。その時、彼とは、ビートルズの「カム・トゥギャザー」"Come Together"のカバーを演ったのですが、アレンジのお手本となったのがミーターズ"Meters"のものでした。まさに黒いビートルズだったのです
1年前くらいに発売されたこのアルバム、タイトルの通り、アメリカの黒人アーティストが歌うレノン&マッカートニー作品集で、ようやく入手したのですが、まず、殆どの曲が未聴のものばかり。それだけじゃなく、大半のアーティスト名が、初めて目にする人達ばかりで、これじゃ、まともな評論なんぞはできませんが、まあ、ここはちょいと多めに見てくださいなw
さて、このアルバム、オリジナル曲の方は全曲熟知しているので、いちばん最初の聴き方として、ライナーやジャケットを一切見ないというのが面白い。僅か数秒のイントロですぐにオリジナルが判別できるものもあれば、歌い出してから長いこと判別できないものもあったりで、非常にスリリングだ。オリジナルに非常に忠実なものもあれば、大きくかけ離れた解釈というものまで多種多様。しかし、例えば、アクの強いオーティス・レディング"Otisi Redding"の歌う「デイ・トリッパー」"Day Tripper"なんぞは、原曲とは全く違うアレンジであるにもかかわらず、バックバンドの演奏だけで判ってしまうのは面白い(あ、いや、これはきっとどこかで聴いた事があるのかもしれない。ただ、収録曲は未発表のオルタナ・テイクだけど)。しかし、この曲や、R.B. グリーヴス"R.G GREAVES"が歌う「ペーパーバック・ライター」"Paperback Writer"なんぞは、元々がかなり黒い曲なので、こういうものはとにかく嵌る。アレサ・フランクリン"Aretha Franklin"の「レット・イット・ビー」"Let It Be"や、アル・グリーン"AL GREEN"の「抱きしめたい」" I Want to Hold Your Hand"などは、さすがに有名どころだけあって、見事な歌いっぷり。まったくと言っていいほど、非の打ち所がない。衝撃度で言えば、ジーン・チャンドラー"GENE CHANDLER"の「エリナー・リグビー」"Eleanor Rigby"。跳ねたリズムにストリングスのアレンジは異質だが、この曲の本質を見事に表現している。また、ザ・モーメンツ"THE MOMENTS"の「ロッキー・ラクーン」" Rocky Racoon"。アレンジは原曲を踏襲しているが、歌い出しの語り調の部分を黒人特有のだみ声で歌われると、曲の主人公が完全に黒人にすり替わってしまうのだから面白い。ロッキーがアポロになってしまうというわけだ、なんちってw ビートルズの盟友、ビリー・プレストン"Billy Preston"の歌う「ブラックバード」"Blackbird"はオリジナルよりも爽やかで、いくつかのキーボードを効果的に使い分けて、いかにもキーボーダーといったアレンジである。そもそもこの曲は、黒人女性の人権といったものがテーマとなっているので、黒人にこそ歌ってもらいたい曲であるのだ。因みに、ビートルズのシングル「ゲット・バック」"Get Back"のアーティスト名義は「THE BEATLES with Billy Preston」で、別格の扱いであった。
このアルバム、私の場合、ビートルズの曲を知っている、というのが前提になってしまっているが、もし、ビートルズを知らない人が聴いたら、どんな感想を持つのかを非常に知りたいところ。ただ、全く聴いたことがありません、という人は、私の周りにはいません。個人的にはこのアルバム、結局のところ、レノン&マッカートニーの才能を再認識する結果となりました。どんなにアレンジを変えようとも、どんなに個性的な歌声で歌おうとも、作品の本質を変容することは不可能なのだと。ただひとつ残念なのは、ジョージの曲がない事。まあ、L&Mという前提なので仕方がないんですが…。
全ての音楽ファンにお勧めします。


ビートルズの『リボルバー』"REVOLVER"を模したジャケット・デザインが秀逸! 盤面の印刷もカッコイイ!

Black America Sings Lennon & Mccartney

Black America Sings Lennon & Mccartney


カム・トゥゲザー~ブラック・アメリカが歌うビートルズ

カム・トゥゲザー~ブラック・アメリカが歌うビートルズ

正確な解説の翻訳が必要なら国内盤も。ただし、かなり割高です。