私に何故と問い給うな

以前『アンダルシアの犬』の記事で少し書いたが、日本では長らくDVD化されていなかったコクトーの作品『詩人の血』"Le Sang D'un Poet(1930)"が発売になった。ついでに、アマゾンの関連商品の紹介で『オルフェの遺言 -私に何故と問い給うな-』"Le Testament d'Orphee -ou ne me demandez pas pourquoi-(1959)"のDVDが廉価版(定価1,500円、アマゾン価格1,000円)で発売されていたので、こちらもポチッ! 先日、無事到着した。本当ならBDで欲しいところなんだが、出ていないものは仕方ない。それにしても、今回購入した2作品、その画質は劣悪であるとしか言い様がない。そもそもがかなり古い作品であるから、高画質化は意味がないという考えなのかもしれないが、基本的にやっつけ。DVD制作は"STUDIO CANAL"というところらしいが、これならば、以前"オーマガトキ"から発売されていたLDの方が余程画質がよかった。まあ、ここで愚痴っても仕方ないが、ぜひ改善を望みたいところだ。

『詩人の血』はコクトーの映画初監督作品で、内容は彼の今までの(映画以外の)作品をモチーフとした極めて実験色の濃い作品であり、トリック的な撮影が多用されている。例えば、フィルムの逆回転、ネガポジ反転等を使ったり、また、書割や部屋の調度品、撮影カメラの上下を逆に設置したセットで演技させたり(再生時、人が天井に張り付いたように見える)、また、廊下の壁にあるドアなどを床に設置、演者は床に寝転がった状態で移動、カメラは真上から撮影する(重力に抗うかの様な異様な雰囲気が出る)といった様な、当時としては極めて斬新な手法が取り入れられている。彼の代表作を知っている者であれば、そこに登場する場面や人物、オブジェ等に、それぞれ意味を見出す事は容易い。しかし、これらの知識が無くとも、この映画の持つ詩的なアプローチに魅了されることは間違いない。
『オルフェの遺言』は前者より29年後の作品であり、コクトー最後の映画作品である。興味深いのは、この作品で使われているトリック撮影の多くが、『詩人の血』で使われたものであるということ。つまり、これらのトリックは、見た目の面白さゆえに使用されたのではなく、もっと本質的な意味が込められていたという事である。例えば、死者が蘇る描写では、殆どの場合にこの逆回転が使用される。彼はフィルムによって時空の自由な行き来とプロフェッサーの生物蘇生術を手に入れたのである。
時空をさまよう詩人は、プロフェッサーを探し出すが、彼は重い障害を負っていた。詩人が誤って彼の母を驚かせた時、彼を床に落としてしまったのだ。再び時空を越え、蘇生術の発明を終えた頃の彼に会い、その銃弾をこめかみに打ち込むと、彼は現代に蘇った。『オルフェ』の詩人、セジェストと再会した彼は、死の女王と運転手ウルトビーズに引き合わされる。詩人の裁判が始まるのだ。ここでのやりとりでは、コクトーの芸術論が展開される。やがて詩人は裁かれるが、ウルトビーズは自分が詩人を裁いた事、そして裁判官になった事が過ちであったと告げる。詩人は再び彷徨うが、途中、芸術の女神ミネルバの槍によって心臓を射抜かてしまう。詩人は再び蘇るが、セジェストに地球はあなたの場所ではないと言われ姿を消す。それは、彼が憧れ続けていた、本当の意味での死であったのかもしれない。


『オルフェの遺言』(ユニバーサル)。送られてきた封筒を開けた瞬間、あまりのダサいジャケットに怒りすら覚える! が、よく見ると、シュリンクとケースの間に挟まれた販売用の仮ジャケットだった。気を取り直してそれを外してみると、またしても醜悪なデザインのジャケが! が、よく見るとこちらも販売用のジャケで、リバーシブル仕様。裏をひっくり返して、ようやくまともなジャケットが現れた。


『詩人の血』(IVC)。こちらは割とまとも。映画『双頭の鷲』の予告編も収録されている。画質は双方とも劣悪だ。


こちらはLD(オーマガトキ)。画質は良好で、ジャケットの作りもよい。


『詩人の血』


『オルフェの遺言 -私に何故と問い給うな-』