松田聖子 『風立ちぬ』 のSACD/CD ハイブリッド盤を聴く(その2)

『風立ちぬ』のSACD/CD ハイブリッド盤を聴く(その1)からの続き。
さて、ようやくB面である。B面のサウンド・プロデューサーは大滝詠一の盟友である鈴木茂だ。このサイドではシングル曲の「白いパラソル」を除く残り4曲の編曲及びギターを担当している。当然だが、A面とは全くアプローチの違う音だ。ただ、これを通して聴いても、全体的な流れが途切れるような印象はない。だが、やはり「白いパラソル」だけはどうしても違和感がある。それは、彼女の歌声が、まだ掠れる前ということで、この曲だけがアルバム全体の流れから外れてしまっているからだろう。鈴木の打ち出した方向性は、やはりビートルズで、それはB面の収録曲が、鈴木を含め、財津和夫杉真理といった、ビートルズサウンド直系の作家陣である事が影響しているのかもしれない。


SACD/CDのハイブリッド盤仕様。デジパック仕様でライナーノーツは「Blu-Spec CD2」とほぼ同じ。オーディオ向けの解説「SACD PRODUCTION NOTE」が付属。

ではさっそく聴いてみよう。6曲目「流星ナイト」。いきなり、流星のSE?からしてもう違う。以前『風立ちぬ』の(音質とかじゃない)アルバムのレビューを載せたときにも書いたが、イントロのギターのメロが「ヒア・カムズ・ザ・サン」のアウトロに何となく似ている事から、陽が沈んで夜になった、と勝手な解釈をしているのだがw それはともかくとして、SACDでは、ベースの存在感が凄い。バスドラムとのコンビネーションが抜群で、このふたつが重なった音が気持ちいいくらい腹に響くが、それでいて、それぞれのディテールはしっかりと感じ取る事が出来る。歌では、♪シールエット、でしゃくりあげる部分がささくれ立つ事なく聞こえるのがいい。また、サビ部分で、掠れ気味の歌声が、極めてビートルズ的かつ繊細なコーラスに絡んで行くところは、思わず鳥肌が立つほど。7曲目「黄昏はオレンジ・ライム」。まず驚かされるのが冒頭のシンバル。この音は簡単そうで実は中々出せない音だろう。後半、Jake・H・ConcepcionのSAXソロはあくまでも柔らかで、当時の言葉で表現するならメロウそのもの。まるで女性の歌声の様でもある。8曲目「白いパラソル」。この曲をここに押し込める理由は、単にアルバムセールス的な意味合いでしかないだろう。当時は、シングル曲が入っていないから、という理由でセールスが大きく左右されたのだ。ただ、このアルバムは失恋的な歌詞の曲が多いので、あの夏の日の恋、みたいな回想シーン的な意味合いで入れた、と無理やり解釈する事も可能ではあるw 財津和夫の作曲だが、音質、音場的にはシングル単独のものでしかない。全体的にこじんまりとしたオケで、まあ、ハイハットの空気の抜け感みたいのは意外と良く再現されていると思う。9曲目「雨のリゾート」。杉真理の作曲。全体的な音の表現は他の曲と同じで申し分ない。ただし、今回のこのSACDでは一部ドロップアウトする部分がある。具体的には、2:33付近の♪レイニー〜、の箇所だが、これは、マスター・テープの経年劣化に起因するものだ。実はよく聴くと他の曲でもちょっとばかり怪しい部分が散見するのだが、まあじっくりと注意深く聴かなければ判らない程度。だが、これはちょっと…。10曲目「December Morning」。言わずと知れた屈指のバラードで、名曲中の名曲。だか、ここでもドロップアウトが…。2:55〜57付近の♪それが目印、の箇所。う〜ん、このバラードのこの部分でのドロップアウトは痛いなぁ。確かにオリジナルを極力弄らずに、というコンセプトは(特にこの企画の場合)非常に重要なんだが、やはり聴いていてストレスを感じてしまうのは何とも悩ましい。まあ、オーディオ的な部分に重きを置いた企画盤で、オリジナルのマルチを弄ると企画意図から外れてしまうと言われればそれまでなんだが…。ところで、ハイレゾで配信されているアルバムでは、この部分はどうなっているんだろう? 気になるところではある。
さて、2回に亘って長々と書いてきたのだが、SACDとはやはりとてつもない力を秘めていると改めて感じたが、いかんせん、現在手持ちのオーディオ・セットが非常に貧弱で、その性能を遺憾なく発揮するためには、いわゆるハイレゾ対応なんちゃら、ってくらいの機材を揃えなけりゃいかんなぁと思ったりもするが、寄る年波というやつで、聴いてるおっさん連中は、もうモスキート音なんて聴こえやしないって現実に、淋しさを覚える今日この頃なのである。